二人の使者-3
「ルクスバードの使者なら今会ってきたばっかりだけど、なんでそれで悠樹が落ち込んでるの?」
きょとんと聞き返されて、悠樹も目を丸くする。
「へ?……イエルシュテインじゃないの?」
「僕が会ったのはルクスバード。と言っても、陛下のお供だけどね。術具の輸出量を増やしてほしいって脅迫まがいに……勝手だよねー」
頬杖をつき、もう片方の手で自分の髪をくるくると遊びながら、フィルドが笑う。悠樹はそれには答えず、黙ったままフィルドに疑念の眼差しを向けた。それに気付いたのか、ふいにフィルドの目が細められた。
瞳に大人びた光が宿り、陽気さが影を潜める。
「確かに、イエルシュテインからも使者は来てるよ」
「っ!」
さっと顔色が変わった悠樹の瞳を、フィルドがすぐさま覗き込んだ。
「その様子だと、要件はわかってるみたいだね」
「………………」
黙ってしまった悠樹を見つめて、フィルドは彼女に気づかれないように小さく息を吐いた。頭の後ろで指を組み、声の調子を変えずに言葉を続ける。
「大丈夫。ファルがなんとかするよ。なんてったって、自分のことだからねー」
「自分の……」
「そう。ま、なんでもいいよ。あの親子にとってはどちらも難しい問題じゃない。それに……初めから答えは決まってる」
思わせぶりなフィルドの態度に、悠樹の視線に棘が含まれる。それを受けて、普段と同じ笑みがフィルドに戻った。
「王宮で起きたのは、その二国から使者が来ただけ。今までだって各国の使者は何人も来てたし、内容も似たり寄ったり。今日に限ったことじゃないのに、何をそんな気にしてるの?」
そう問いかけたフィルドの表情が、突然変わった。振り返って王城のほうを向き、うそ、と呟く。
「フィルド?」
驚いた、というより、うろたえているようなフィルドの様子に悠樹も立ち上がった。急いで王城のほうに目を向け、そこに集まる術の力を感じ取る。
それは、セルナディアにいる術師の誰とも違う気配。
「誰?こんなに力の強い人、いなかったよね?」
悠樹の質問には答えず、フィルドはじっと同じ場所を見つめている。
やがて、気配は東屋の手前に移動し、術力の気配と共に一人の術師がそこに立っていた。