宣戦布告?-2
「ダメです」
間髪いれずに答えたのはローミッドだった。表情をそぎ落とし黙り込んでしまった主に代わってフィルドを睨みつける。
「お忘れですか?悠樹様は元の世界に戻るため、日々努力していらっしゃるのです。もしこの世界に残られるのだとしてても、暁姫として殿下のおそばに―」
「そういうこと言う?立場的に、僕はローの味方だと思うんだけどなぁ」
ローミッドの言葉を遮って、フィルドはきゅっと目を細めた。
「悠樹がこの国に残ると決めた時、その居場所はファルの隣だなんて誰が決めたの?少なくとも僕は、暁姫にそんな未来を決めつけてはいなかったよ」
「フィルド様はそうかもしれませんが、セルナディアの民は皆、その未来に希望を見出してきました。……私もそうです」
「悠樹の意志は無視?」
「それは……」
「悠樹に教えてあげないの?暁姫としてではなく術師として生きることも、ファルではなくローを選ぶ未来もあるんだって。ローだってそういう未来を望んだことあるでしょ?……僕が気付かないとでも思ってた?」
虚を突かれたようにローミッドが言葉を失う。フィルドはくすくすと声を上げ、ファルシオは瞳を閉じて息を吐いた。
短い沈黙の後、ローミッドはゆるく頭を振って顔を上げた。
「悠樹様のお人柄が大変好ましいことは、屋敷の者全員が存じております。それについては私も同感ですが、主に対して疚しい思いなどございません。そのように、殿下のお心を乱し、執務の邪魔をするのはお止めください」
「ふーん。ま、ファルの前だし?そういうことにしてあげ……っと、時間切れだ」
まっすぐ自分を見るローミッドの視線を正面から受け止め、何か言いかけたフィルドは途中で言葉を切るとふわりと笑った。満足そうな笑顔は今まで浮かべていたものとは違い、優しげだ。
「早くなったなー。やっぱりファルにあげるのはもったいない」
楽しそうにそう言い、フィルドは現れたときと同様、突然姿を消した。同時に、バタバタバタバタ、ココン、バァン、と擬音付きで噂の少女が現れる。
「フィルド、いる?!」
肩で息をしながら室内を覗き込み、渋面で振り返ったローミッドを見て、やば、と呟く。
「悠樹様。廊下は走らない、ノックをしたら返事を待つ、ドアを開けるときはお静かに」
「ああああああすみませんごめんなさい。で、フィルドはどこ?」
「たった今、どこかに移動されましたよ」
「また間に合わなかった……」
がっくりと肩を落とす悠樹に、ファルシオが強張った顔を向ける。ローミッドとは違い、彼はまだ一瞬で表情を切り替えることが苦手なのだ。
「何をやっているんだ」
「術の練習」
端的に答え、悠樹は室内に歩を進めた。