執事ローミッドとお買い物-6
「あれは、眠りの呪いが発動するまで一年を切った頃でした。表向きは以前と同じように振舞っておられましたが、殿下は塞ぎこむことが多くなって、執務もあの方らしくない処理をされることが増えました。ですから、剣技大会への出場をお勧めした……いえ、お勧めするよう命じられたのです」
「命じられた?」
悠樹が聞き返すと、ローミッドは視線を戻して彼女を見つめた。ふいに顔を近づけると、そっと声をひそめ、秘密ですよ、と念押しする。
「リュクレティア皇后陛下からご命令だったのです」
「皇后様の……」
「後から伺ったお話ですと、同じころ陛下も物思いに沈まれることが多かったようです。剣技大会は御前試合ですから、殿下に気晴らしをお勧めすると同時に、陛下を驚かせようというご配慮があったのでしょう」
懐かしむように目を細め、ローミッドは息を吐いた。
「結局、観客には身分を明かさないまま準決勝が行われ、シェリスが殿下のお相手を務めました。手を抜いたら眠りにつくメンバーから除外すると脅されていましたから、シェリスは勝たないわけにはいかなかったでしょう」
「……ファル、大人げない」
「まぁ、そこで奮起したからこそ次の決勝で護衛隊長殿を打ち負かすことができたのだと本人は言っていましたが。……素人目には、殿下のお相手をしていた時のほうが鬼気迫るものがあったように思います」
そう言ってローミッドは話を終え、ふーん、と頷きかけた悠樹はそのまま首を傾げた。
「じゃあ何でローミッドさんは武器を持っているの?」
「もちろん、大切な方を守るためです」
何でもないことのように言ってのけ、ローミッドは表情を改めた。