執事ローミッドとお買い物-5
「怖い思いをさせてしまいました。護衛の者を連れてこなかった私の失策です。申し訳ありません」
屋敷への帰り道、ローミッドは唐突に頭を下げた。突然の謝罪に、悠樹はきょとんと彼を見返し、すぐに頭を振る。
「ありがとうございました。守ってくれたんですよね」
「お守りするのは当然のことです。ただ……ご婦人に荒事などお見せするものではないという事にまで考えが至りませんでした。なんとお詫びしたらよいのか」
「だから、目を?」
「ええ。……あの場で目を閉じるなど、余計に怖い思いをさせてしまうというのに。本当に申し訳ありません」
よほど責任を感じているのか、ローミッドの表情は翳ったままだ。悠樹はそんな彼を見つめて、先程から考えていたことを口にした。
「執事のお仕事って、その、武器の扱いも必要なんですか?シェリスみたいな護衛の人を連れていけない場所ではローミッドさんがファルを守るとか」
「いえ。護衛の兵を連れて行けない改まった場所では、専門の警備がつきます。私が実際に殿下をお守りすることはないでしょうね」
「え、そうなんですか?」
意外な言葉に、悠樹から驚きの声が漏れる。ローミッドの性格を思えば、命に代えても守る、と言いそうなのに、と心の中で呟く悠樹に、彼はその声が聞こえたかのように笑みを浮かべた。
「シェリスがセルナディアで一二を争う剣の遣い手だということはご存知ですね?」
「ええ」
「ではその、“一二を争う相手”に、殿下が含まれていることは?」
言葉遊びのようなローミッドの話に、悠樹は一瞬眉を寄せ、すぐに目を大きく見開いた。彼女の反応を待って、再び話し始める。
「以前、殿下は名を偽って剣技の大会に出たことがあるのです。そこで準決勝戦まで勝ち抜いたのですが、その時の相手が―」
「シェリスだった?」
「はい。各トーナメントの勝者同士、準決勝前の組み合わせを決めるために顔を合わせたところで、シェリスと他のトーナメント勝者、陛下の護衛隊長殿と副隊長殿の三人が殿下に気付いたのです」
「…………それまで、誰も気付かなかったの?」
呆れたような声を出す悠樹に、ローミッドは苦笑する。
「髪の色を変えて目より下を布で覆い、口がきけないふりをしていたのですよ。競技中の動きだけで見破った三人の観察眼が素晴らしかったということでしょう」
「ローミッドさんは?」
「私は……共犯者でしたから」
くすりと笑い、彼は記憶を思い起こすように流れる景色へと視線を移した。