執事ローミッドとお買い物-4
(逃げ、ない、と……)
ようやく次の行動へと思考がつながった時、悠樹の視界に彼女をかばう背中が映った。
「ローミッドさん?!」
「大丈夫です。ただ、できれば目を閉じていてください」
左腕で引きとめようとした悠樹の動きを制し、すぐに顔を前に戻す。
二人のやりとりを待っていたわけではないだろうが、男はやおらナイフを振りまわして突進を再開した。ローミッドと、男を取り押さえようと周りを囲む男たちを威嚇するように、左右に大きくナイフを振り回す。その様子を冷たい視線で見ていたローミッドは、男が自分の正面に来たタイミングで右腕を振り上げた。無駄のない、流れるような動きはいっそ優美でもあったが、その指から放たれた銀色の光は確実に男の右脚を貫き、男はもんどりうって地に崩れ落ちた。
「ローミッド、さん?」
「ここにいてください」
ローミッドは警戒の残る声でそう言い置いて、這って逃げようとする男へと近づいていった。苦痛の声を上げる男の右足には細身のナイフが突き立てられていて、そこからじわりと赤い色が滲み出ている。
かたかたと震える手に握ったナイフをなおも放そうとしない男を静かに見下ろして、ローミッドは小さく首を振った。
「動かないでください。傷が深くなります。……一生歩けなくなりますよ」
その言葉に、男はぎくりと身を強張らせると、怯えたようにローミッドを見上げ、やがて観念したようにその手を地に落とした。抵抗の意思がなくなったことを確認して、ローミッドはナイフを取り上げて男の元に屈みこんだ。自分のリボンタイを抜き取って止血しながら、男と一言二言、言葉を交わす。そして、誰かが呼んだらしい巡察の騎士隊に男を引き渡すと、人ごみを避けるように悠樹を連れてその場を後にした。




