執事ローミッドとお買い物-3
ふいに、ある一点を見つめたまま、悠樹の足が止まった。ローミッドが不思議に思ってその視線の先をみると、そこには一軒の店。
白い壁に青い横のライン、その上に白いインクで書かれた店名。その横に建てられた看板は砂時計に似た形でやはり青く塗られ、中央に縦長の白い長方形のような絵が描かれている。
悠樹にとって、それは見なれたカラーリングだった。自宅近くにあった、大手コンビニチェーンによく似たデザインだからだ。
ローミッドにとっても、それは珍しいものではなかった。百年前にも存在していた、老舗店のデザインだからだ。
気づけば、その店の前で二人はたたずんでいた。
ローミッドはそっと悠樹に近づき、問いかけた。
「どうかなさいましたか?」
「あれって……ローソン?」
「少し発音が違うようですね。あれはドーソン。百年前にもございましたが、元はセルナディア国営の―」
「コンビニ?!」
「いえ、術具販売店です」
予想を裏切る回答に、悠樹はさらに目を大きく開き、ローミッドとその店を見比べた。
(確かに便利なお店には違いないけど。違いないけどー!)
唖然としている悠樹を見つめてローミッドがくすりと笑う。
「百年前、セルナディアがなくなり国営から民間経営に変わりました。術師が眠りについて新しい術具が手に入らなくなってからも、不要術具の買取と販売を続けていたようです。今は古いものと両方扱うようになって、百年前より以前より品数も多いとか」
「……リサイクルショップだ」
「ご覧になりますか?悠樹様のお話からフィルド様が作った―」
突如、甲高い女の悲鳴と太い怒声がローミッドの言葉を遮った。続けて、「だれか!そいつを捕まえてくれ!!」と叫ぶ声が響き渡る。
振り返れば、体格のいい男がこちらに向かって走って来るところだった。その奥には転倒したのか若い女性が座り込んでいる。
「どけっ!道を開けろ!」
奪ったものであろう、女物の鞄を抱えて男が叫ぶ。凶暴な光を瞳に宿した男の姿に、悠樹の足がすくんだ。
(どう、しよう……)
ぽっかりと思考回路に穴が開く。悠樹は目を見開いたまま、次に取るべき行動が思いつかない。
道の真ん中に立ちすくんだ悠樹とローミッドは、男の逃走経路を塞ぐような形になっている。男は、小さく舌打ちすると懐から何かを取り出した。
右手には鋭い光を放つナイフが握られている。小型ではあるが幅が広く、十分に凶器となりえるそれに、悠樹のすぐそばでまた女性の悲鳴があがった。