執事ローミッドとお買い物-2
街に行くだけだというのにやたら飾り立てようとするアリアに、「できるだけ目立たないように地味に、アリアの私服に似たものを」と注文をつけ、悠樹は水色の膝丈ワンピースに白いエプロンという、普段とあまり変わらない姿で屋敷前のロータリーに降り立った。
用意された馬車は以前ルクスバードに行く時に使用した豪奢なものではなく、薄い日除けの幌がかかった軽装備のものだ。その御者と話しているローミッドの姿に、悠樹と見送りに来たアリアは揃って絶句した。
いつものフォーマルな衣装ではなく、襟の開いたシャツにリボンタイを緩く結んだだけのラフなパンツルック。きっちり撫でつけられていた髪も目元を隠すように下ろされ、普段のストイックさが嘘のような色気を振りまいている。
彼は振り向いて悠樹の姿を見つけると、恭しく頭を下げた。
「えと、ローミッドさん、ですよね?」
「はい」
「その格好は……」
「執事服では目立ちますから」
(別の意味で目立ちそうです)
言えるはずのない突っ込みを心の中で叫び、悠樹はアリアを振り返る。優秀なメイドでもある彼女はすでに表情を整えており、にこやかな笑みを顔に貼り付けて、いってらっしゃいませ、と頭を下げた。
「では参りましょう」
差し出された手は素肌。手袋とは違う色にもドキリとしながら、悠樹はその手を取った。
馬車に乗って森をぬけ、街へと向う。すでに屋敷や王城から周辺のいくつかの街道は整備されているというローミッドの解説を聞きながら、進行方向に見えてきた塔を指差す。街の中央にある教会の尖塔だと聞かされ、悠樹は初めて見る街の姿に目を輝かせた。
馬車で街中まで入り、停車場からは徒歩になる。レンガ造りの建物が集まるその街は、人が多く活気があった。パンや肉の焼けるいいにおいがそこかしこから漂い、客を呼ぶ売り子の声も賑やかだ。
「このあたりは元々、王都の一角の下町だったのですが、この地域だけがずっと変わらず街として続いていたようです」
「へぇー。あ、あれかわいい」
話半分に聞きながら、悠樹の目は左右をきょろきょろとせわしなく観察している。窓辺に飾られた花や雑貨、露天のアクセサリーなど、金銭的価値だけを考えれば屋敷にあるもののほうがずっと高価なのだが、悠樹は飽きもせずにそれらを見て回っていた。
彼女の行動は買い物とは名ばかりだ。ローミッドはまだ一度も、支払いをしていない。だが、並べられている商品を見てまわり、店先で売り子と会話しては笑う悠樹を見ていると、物を買う事だけが買い物ではないのだと教えられる気がして、ローミッドは常になくその目を和らげていた。




