ある夜の会話-2
普段よりも若干早口に、ファルシオが話し始める。
「術師や術具は、目覚めた後の復興の切り札といってもいい。他国に出すわけにはいかなかった。……まぁ術師の一族は全員セルナディア国外に出ることを拒んでいたからな。全員が城に残ると言ってくれたのは本当に助かった。あの庭師見習いに関しては……ローミッド?」
「はい。本来、見習いクラスは紹介状を持たせて他国の王族や貴族に出したのですが、彼はアリアの婚約者として残留申請しており、それが認められたようです」
「ふーん。それなのに、私との仲を疑わ――」
「あああああとは市井からも公募したぞ」
悠樹の言葉を遮って、ファルシオが強引に話を切り替える。その様子さえもおもしろそうに目を細める悠樹を軽く睨んで、ファルシオは一口紅茶を含んだ。
「集まってきたのはシルクのような物好きだ。百年後の世界を見てみたいって学者と、新天地で力を試したいって商人と」
「あれ、シルクは一般公募なの?友達なんでしょ?」
そう言うと、ファルシオは途端に眉を寄せた。嫌そうな顔というには目元が優しく、照れ隠しと呼ぶには口元が厳しい、微妙な表情だ。
「友人というより、腐れ縁だな。あれでもそれなりに優秀な研究者だから他国の大学や研究所からも引く手数多だったというのに、過去は解明できるが未来は想像することしかできない、とかなんとか言って、強引に城に残った」
「…………なんというか、“らしい”ね」
苦笑する悠樹にファルシオも笑って返し、すぐに表情を改めた。
「だが、一般公募で一番多かったのは重病人を抱えた家族だった。今は不治と言われている病も、百年後なら治す方法があるかもしれない、と言ってな」
そう言ってファルシオは目を伏せた。当時のことを思い返しているのか、その表情は決して明るくない。一瞬の躊躇の後、悠樹は質問を重ねた。
「その人たちはどうしたの?」
「百年後、どうなっているかわからない。治療法が見つかっていない場合もある。万一大陸に戦火が広がっていれば今と同じ治療さえできないかもしれない。そういった最悪の状況を想定して、それでもいいと本人と家族全員が了承した者だけ受け入れた」
「それで?」
「目覚めてすぐ、他国の医療施設に受け入れを依頼した。やはり百年の進歩はすごいな。大半は治療が可能になっていた。そうでない病も、完治はできなくても症状や痛みを和らげることはできるようになっていたらしい。……皆、後悔はしていないと言ってくれた」
そう言って、ファルシオは笑った。