ある夜の会話-1
食事が終わり、紅茶が差し出される。
この日、珍しくファルシオの執務が早く終わり、悠樹の部屋で一緒に食事を取った。マナー研修担当のローミッドが目の前で給仕をするため、悠樹にとっては息の詰まる食事ではあったが、大きな失敗をすることはなかったようだ。ほっと肩の力を抜きながらそれを受取り、悠樹はふと、目の前に座るファルシオに問いかけた。
「そういえば、一緒に百年の眠りにつく人って、どうやって選んだの?」
ファルシオはわずかに目を見張って、苦笑した。
「唐突だな。……基本的には希望者だ。まずは城勤めの者の中で、共に呪いを受けると志願してくれる者を募った。その中から、家庭事情で許可出来ない者を選別するんだ」
カップをソーサーに戻し、テーブルの上で指を組むファルシオの瞳は穏やかだ。彼にとって呪いの話はタブーなのかもしれないと遠慮していた悠樹だったが、これなら大丈夫だろうと話を続ける。
「家庭の事情……って?」
「例えば……新婚の夫婦や子供が産まれたばかりとか。両親を養う必要がある者などだな」
「そっか。百年後の生活がどうなっているかわからないから……」
「ああ。不安を感じ、離れることを厭う家族がいる場合も遠慮してもらった。できるだけ、遺恨は残したくなかったからな」
「ふーん。道理でみんな明るいと思った。百年経ったことに後ろ向きな人、全然いないんだもん」
そして比較的若い人が多い。百年後、どのようになっているのかわからない状況でも生きていけるような、心身ともに強い者が選ばれたのだろう。
頷いたところでノックの音が響いた。使い終わった食器の片付けを終え、戻ってきたアリアの顔を見てファルシオが続ける。
「それから、術師の血に連なる者とその家族は全員城に残ってもらった」
「それってアリアとか、あの庭師さんとか?」
庭師、の言葉にその場にいた人々の表情が変わった。アリアは頬を染め、ファルシオは気まずそうにし、ローミッドはいつもどおりを装うとして口元をわずかに緊張させている。
その様子をにやにやと観察する悠樹に、ファルシオは咳ばらいを一つして頷いた。