術師フィルドの術式講義-3
ノーコン悠樹にフィルドが与えたアドバイスは、術の発動範囲と強さを限定させること、だった。
火属性、水属性は小指の先だけに力を集めるように、風属性、時間属性は腕を振って動いた空気だけを動かすように、土属性、空間属性は自分の足元だけに効果を与えるように、といった具合である。
「集え火の気。留まりて炎を起こせ」
「わ、あったかーい。けど、火にはなってないよ」
「う……。じゃ、じゃぁ小指じゃなくて人差し指にしてみる。集え火の気。留まりて炎を起こせ。……あ……」
「……一瞬で塵にするなんて、悠樹、けっこう過激だね?」
(嫌ぁぁ!笑顔が怖いっ!)
にこにこと笑う表情はそのままに、声の調子だけが変わる。術式講義の時だけはフィルドは感情を表に出すことが多いようだと、どうでもいいことも学びながら、悠樹は日々術式を暴走させていた。
「はい、もう一回」
どこからか取り出した紙をくしゃくしゃっと丸めて、ぽいと悠樹のほうへ転がす。悠樹はそれを見つめ、自分の手を見つめた。
「小指だと弱くて、人差し指だと強すぎる。でも薬指って意識集中させるのなかなか難しいんだよね」
むー、と唸って考える悠樹に、フィルドは小さく首をかしげた。
「小指に、今以上の力を集めるってことはできないの?」
「うーん。なんとなくなんだけど……指が重くなる気がするの」
「熱く、じゃなくて?」
火属性なのだから質量のようなものはない。悠樹の言う感覚を捉えかねてフィルドが尋ねると、悠樹も首を傾げた。
「火属性じゃなくても、力が集まると熱みたいなのは感じるよ。でも、なんとなく火属性は重たい感じがする」
「ふーん。……わかった。ちょっと待ってて」
そう言って、フィルドはふっと姿を消した。その場に残る空間属性の気配から転移したことだけはかろうじて悠樹にもわかるが、どこへ行ったのかまではわからない。
とりあえず、手近な椅子に腰掛けて持参した水差しに手を伸ばした。どういうわけか、フィルドの結界の中にいると喉が乾きやすい。これもフィルドには理解できない感覚らしかったが、悠樹は水で喉を潤し、息を吐いて立ち上がった。
「お待たせー」
同時に、先程と同じ場所にフィルドが現れた。ひょこひょこっと悠樹に歩み寄り、小脇に抱えた細長い箱を差し出す。
「コレあげる」
渡された箱の中には、小さな杖が収められていた。長さは三十センチほどで、シャープペンほどの太さの銀色の棒の先端にピンポン玉サイズの透明な球体が付いている。その中には某高級車を思わせるスリー・ポインテッド・スターが固定されていて、小さなラメのようなものがキラキラと周りを舞っていた。
いわゆる、『魔法のステッキ』的なソレに、悠樹は顔を引きつらせた。