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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
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術師フィルドの術式講義-2

 内心の野望を隠したまま、フィルドは最初に使う術は、と思案する。

「まずは探索(ピアテ)、かな」

「探索?」

「そう。探している人が今どこにいるのか、それを示す術言(デスペル)。知り合いを探す時にしか使えないんだけど、比較的簡単で実用性が高いから便利だよ。屋敷とか中庭とか、探しまわらなくていいでしょー」

 そう言って、フィルドは悠樹のノートにスラスラと何かを書き込んでいく。

「探索は(ウル)属性。大気を操り、気配を探る。はい、コレ覚えて」

 先程の紙を乾かす術言もそうだったのだが、ノートに書かれたのはセルナディアの文字ではない。どちらかといえばアルファベットに近いが、見たことがないにも関わらずすらすらと読める。そのことに驚かないくらいには、悠樹もこの世界と術というものに順応していた。

「『風よ(ウル)空を翔け(イルセ・カジャ)彼の者を捉えよ(スィト・ペル・イオン)』?」

「そう、その彼の者(イオン)に僕の名前を入れると、僕を探す術言になる」

風よ(ウル)空を翔け(イルセ・カジャ)フィルドを捕らえよツィト・ペル・フィルド。……きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 悠樹が言葉を結んだ瞬間、突如、室内に突風が入り込んだ。竜巻のごとく吹き荒れる強風はまっすぐフィルドに向かっていく。当然、その隣にいる悠樹も風に煽られ吹き飛ばされそうになり、慌ててテーブルにしがみついた。

 その中で、フィルドは額を押さえて首を振ると、パチン、と指を鳴らした。

 同時に突風は消える。

 悠樹は肩で息をしながらバサバサに乱れた髪と服を整え、ふっと、その動きを止めた。背後から冷たい空気が漂って来ていることを感じ取ったのだ。

「『捕らえよ(ツィト)』じゃなくて『捉えよ(スィト)』。だ、れ、が、竜巻起こして僕を捕まえろって言った?」

 常にない低い声にフィルドの本気が見え隠れする。

(知らないってば!つかフィルド、怖いっ!怖すぎる!!)

 心の中で言い返しつつ、表面上はしゅんとした顔で、ごめんなさい、と呟く。口を尖らせて悠樹を見つめていたフィルドは、やがて大きなため息をついて、またノートにペンを走らせた。

風術言(ウル・デスペル・)強制破棄(レーナ・ジャ・ルーマ)。先頭はその時使った術の属性にして、失敗したと思ったらすぐにこれを言って。とりあえず、その時点で止まるから」

「はい」

 殊勝に頷き、ノートに【重要】と書き込んで線で囲む。

(他の何を忘れても、この言葉だけは忘れないようにしよう)

 フィルドがいなかったら大惨事になっていただろう。悠樹は心に強く誓い、それを知ってか知らずか、フィルドは暢気に言葉を続けた。

「ただし、発動したら継続する術だった時は、すぐに人を呼ぶこと。(トラン)属性の場合、発火を止めるだけで延焼は防げないからね」

「わかった。えーと、火属性の場合は、火術言(トラン・デスペル・)強制破棄(レーナ・ジャ・ルーマ)でしょ。……あれ?」

 悠樹の言葉と同時に、ふっと、室内の照明が消えた。窓から差し込む自然光だけの薄暗い部屋に、しんとした沈黙が落ちる。

 やがて、にぃっとフィルドの口角が上がった。三日月のような弧を描くそれに、悠樹は冷たい汗を感じながらへらっと笑ってみせた。

「……明かり、消えちゃったね」

術具(デック)の機能停止なんて頼んでないよ?」


 その後、術式研究棟とファルシオの屋敷から、室内灯や暖炉、厨房などに置かれた全ての火属性術具が機能停止したという連絡が入る。それ以降、悠樹の術の練習はフィルドが張った結界内でだけ行われることになった。

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