直面した現実-3
ルクスバード国王との会話を終えたファルシオの元に突如現れたフィルドは、彼の顔を見て笑みを消した。すぐにセルナディアから来た一行を集めて何事かを囁き、一瞬で彼らをセルナディア王城へと送り届けると、ファルシオたちと共に中へと入っていった。議会の招集がかけられていたのを耳にしたから、これから国王への報告と対応の協議が始まるのだろう。
悠樹は部屋へ戻され、今日は早く休んだほうがいいというアリアの勧めに従ってベッドに横になった。慣れない馬車での移動は確実に体に疲労を蓄積している。疲れている体に柔らかなベッドは心地よかった。それなのに、悠樹は眠ることができず、ただ窓の外の景色が昼間から夕方、夜へと移り変わっていくのを見ていた。
どのくらいそうしていただろうか。
すでに高い位置にある月がベッドに横になった悠樹の視界に入った。この世界には、警備に必要最低限の明かりがあるだけで派手なイルミネーションがない。そのためか、月や星がより明るく見える。
ふと、それらをちゃんと見たくなって、悠樹は上着を手にすると、そっと部屋を抜け出した。
一つ上の階に作られたテラスにはすでに先客がいるようだった。
小さなランプを供に、見慣れた人影を見つけて悠樹は小さく息をのんだ。気配を察したのか、その人物が振り返る。
「何をしているんだ。こんな時間に」
「…………ファル王子こそ」
「俺は……いいだろう、別に何でも」
ふいと姿勢を戻し、テラスから外を見下ろす。その背中が、そばに行くことを拒否しているようにも、逆に望んでいるようにも見えて、悠樹は一瞬躊躇する。
「私は、月を見に来たの」
結局、そう答えてから足を踏み出した。それほど強くはないが、頬に当たる風は思っていたよりも冷たく、歩きながら手にした上着を羽織る。袖は通さず、肩にかけて前を押さえただけだが、肌に感じる温度はかなり和らいだ。
ファルシオの隣に立つと、眼下には整備された広場と、その先の鬱蒼とした森が広がっていた。満月を少し過ぎた月が投げかける明るい白光で、うすぼんやりとその姿を見せている。
「月?そんなもの、部屋からでも見えるだろう」
「見えるけど、ここのほうが綺麗に見えるでしょう。……私の国にはお月見って風習があるの。綺麗な月を皆で愛でましょうって」
(今日は満月じゃないから、本当は少し違うんだけど。でも……)
心の中でそう付け加えて、月を見上げた。
(どんな理由でもいいからここにいさせて。今は、ファル王子を独りにしちゃいけない気がするんだ)