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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
48/166

直面した現実-1

「それで?」

「ん?」

 詰問口調の悠樹の言葉に、ファルシオは本のページを繰る手を休めて彼女を見上げた。

 ベッドのヘッドボードに寄りかかって脚を投げ出しているにも関わらず、そこにだらしなさは感じない。むしろ、どこか艶やかな雰囲気さえ醸し出しているようで、見ているだけで妙にどぎまぎしてしまう。

 それを誤魔化すように、悠樹は腰に手をあてて彼と対峙した。

「何がちょうどいいから、私も一緒に出掛けることになったわけ」

「必要だからだ」

 そんなことか、と興味を失ったようにファルシオは手元の本に視線を戻し、悠樹はさらに不機嫌な表情でそれを見下ろした。


 話は夕方に遡る。

 シルクの講義がファルシオの提案によるものだと知り、礼を言うために彼の執務室に向かった悠樹は、扉をノックしようとした時、中から出てきた兵とぶつかりそうになった。それを見送ってから部屋を覗くと、机上の整理をしているファルシオと目が合い、「ちょうどいい」という謎の言葉と共に馬車に放り込まれた。悠樹の思考はその急展開についていけず、結局お礼の言葉も言いそびれたままだ。

 とはいえ、何もわからないまま、どこかへ連れて行かれるのも不安だ。

 街道沿いの街宿についてすぐ、悠樹はファルシオの部屋に乗り込んで行き、冒頭の疑問を投げかけたのだ。

 納得できる説明があるまでそこから動くつもりはない、と態度で告げる悠樹を見上げ、ファルシオは手にした本を閉じた。

「俺にかけられた眠りの術のせいで、セルナディアは百年前消滅した」

「え?」

「王子共に、王と王妃、城中全員眠りに落ちたんだ。政治を行う者がいなくなれば国は国の形を失い、そこに暮らす民が困る。だから父上……陛下は長い眠りに入る前に国を分割し、周りの国に譲渡した。いずれこの地に戻る日にその何割かを返還してもらう約束で」

 本の上で握られた拳に、ぐっと力が入るのがわかった。冷静に聞こえる声からは伺えない、彼の本心がそこに見える気がして、悠樹は声をかけることもできずにそれを見つめていた。

「カナカスタ、ヤンナチェルクは国内の処理が済み次第返還の返事をしてくれた。だが、ルクスバードからは返事がもらえなくてな。」

「ん?無視されてるってこと?」

「簡単に言えばそうなる。だから、返答内容の確認と今後の国交について、直接会って話をする必要が出てきた」

 ふぅん、と納得しかけて我にかえる。悠樹は一歩前に踏み出して、ファルシオを見下ろした。

「それはいいけど、私が一緒に行く理由にはならないんじゃない?」

 ぱたん、と音を立てて本を閉じると、ファルシオは色素の薄い瞳で悠樹を見上げた。

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