シルク教授の学科講義-4
部屋に戻って、ベッドに寝転がる。天井を見上げながら、先ほど聞かされた話を思い出していた。
シルクに悠樹への講義を依頼したのはファルシオだ。本人曰く“快く引き受けた”シルクに、ファルシオは更に一つの条件をつけた。それが、「絶対に無理強いはしないでほしい」というものだった。
『無理矢理やらせて、この国や暁姫であることを厭うようにはしたくない。型にはめるんじゃなくて悠樹様が楽しめるようにカリキュラムを組んでくれって、あのファルが頭を下げたんですよ』
シルクの声が蘇る。からかうような口調で、慈しむような声色で。
『自分の呪いに巻き込んでしまったこと、ファル自身ではどうしようもなかった過去のことで、彼はずっと自分を責めている。一人ですべてを負おうとしている。誰もそんなこと望んでなどいないのに、それがわからない。…………いえ、わかろうとしない、かな』
窓を背に振り返り、シルクは笑っていた。
『頭はいいのですがね、おバカなんです。我らの王子は』
ころりと寝返りをうつと、光が視界に飛び込んできた。
窓際に置いた響鳴箱と刻音が、夕陽を反射させているのだ。それを見ているうちに、胸の内にほんわりと温かいものが湧き上がってきた。くすぐったいような、照れくさいようなそれは笑みとなり、やがてくすくすと声がもれるほどに大きくなる。
(覚悟しろ、とか言ってたくせに。……めちゃくちゃ甘やかしてるんじゃん)
「バカ王子」
小さく呟いて、悠樹はベッドから起き上がった。鏡台に向かい髪と服とを整え、くるりと回って全身を確認すると。
「よし」
小さく気合を入れて、彼女は自分の部屋を後にした。