シルク教授の学科講義-2
沈黙と気まずい空気が部屋に満ちた頃、シルクが苦笑を浮かべた。
「わかりました。では、今日はここまでにしましょう」
「え!いいの?」
「はい。……今日だけですよ。あと、ファルには内緒にしてくださいね」
声を潜めるシルクに何度も頷いて、悠樹はすぐに片付けを始めた。
ぱっと明るくなった声と表情、ぱたぱたと本を閉じている少女を見つめていると、ふと、その手がぴたりと止まった。おや、と不思議そうに見下ろす視線と不安そうに見上げる視線とが、中途半端に片付けられたテーブルの上で交差する。
「どうかしましたか?」
「もしかして怒ってる?」
二人同時に発せられた疑問に、二人が同時に吹き出した。
「怒っていませんよ。無理もない、と言いましたよね」
「そうだけど。なんかお説教っぽい話で終わっちゃったから」
くすくすと笑い続ける悠樹に、ただし、とシルクが付け足した。
「帰る前に、先日の課題だけは提出してください」
「課題……ってなんだっけ」
「そんな可愛いらしい顔をしてもだめです。刻音の中で気に入ったものを教えてください、と言いましたよね」
シルクの言葉に、おお、と手を打って、悠樹は一つの刻音を取り出した。手の平に乗せられているのは、薄い緑色のものだ。
「これ好き。夜に聴くと落ち着く」
「おや、趣味が似ていてうれしいですね」
にこやかに言いながらシルクは戸棚から響鳴箱を取り出し、悠樹から受け取った刻音を中へ落とした。
やがて鳴り始めたのは鈴の音。規則的なその音の上に、一つ、また一つと異なる旋律が重なり、それが一体となって物悲しいメロディを作り出す。音が途切れる瞬間のない複数の旋律は転調を繰り返しやがて明るい調性へと変わり、荘厳な雰囲気で終了する。
(最初に部屋で聴いたやつも好きだけど、他のを聴いてないと思われるのも嫌だし)
そんな裏事情は伝えずに、印象に残った点をシルクに告げる。
彼はその箇所で使用される楽器について話し始め、やがてその音楽が生まれた時代背景と地理的条件にまで発展させていく。ハミングだと思っていたボーカルが実は歌詞であったり、その歌詞が持つ宗教的な意味合いであったりと、シルクの造詣は深く話は興味深い。
悠樹は飽きることなくその話を聞いていた。