属性と術具-5
くるくるとその回転速度が上がると、聞こえて来る音も大きくなり、それがカツカツと響く靴音だということもわかってくる。その音がリズムを刻み、やがてそれにカスタネットのような打楽器が加わり、ギターやフィドルのような複数の弦楽器が重なり、それぞれの楽器の人数が増え、徐々にその規模を大きくしていく。
時折明るい笑い声や話し声、少し音楽とズレて聞こえて来る手拍子なども聞こえて来る様子から、祭りの情景を録音したものなのだろう。そう思い当たって、悠樹はもう一度響鳴箱とその中で回転する刻音を凝視した。
(音楽プレイヤーの一種?術具ってことは、どっかに術石が……)
透明な金魚鉢にしか見えない響鳴箱。
ガラス玉にしか見えない刻音。
それを見比べたところで悠樹には仕組みはわからない。
(よく考えたらCDプレーヤーの仕組みだって全然知らないんだし。…………考えるだけ無駄なのかも)
早々に諦めて音楽に耳を傾けることに専念すると、やがてクライマックスを迎えたその音楽は拍手と歓声で終わり、刻音の回転も止まった。ふわりと響鳴箱の上に浮き上がり、悠樹の手に戻る。
「いかがですか?」
「これで音が鳴るとは思わなかった」
「……なかなか斬新なコメントですね」
苦笑して、シルクは悠樹の顔を覗き込んだ。
「今の曲を聴いての感想です」
「あ。えーっと、お祭りか何かよね?少し民族音楽っぽい感じだったけど、これってこの国では一般的なメロディなの?」
「いいえ。これは西にあるヤンナチェルクという国に伝わる舞曲です。独特の音階と速い五拍子のリズムが特徴的で、セルナディアでも人気が高いんですよ」
「ふーん」
赤橙色の刻音を指で摘んで、その中を覗き込む。響鳴箱がなければ、やはりただのきれいなガラス玉にしか見えない。きゅっとそれを握りこんで、シルクを振り返る。
「で、なんでこれを私に?」
「刻音はまだ色々ありますから、とりあえず全部聞いてください」
はい、と手渡されたのは先ほどの赤橙色のガラス球と、他にも色の違う球体が五~六個ほどおさめられた袋だった。軽く振ると、薄茶色の柔らかな素材で作られた袋の中でそれらが軽く触れ合って、澄んだ音を響かせる。
「この中から一つ、気に入ったものを教えてください。それが課題です」
「は?課題?!」
聞き覚えのある、できれば耳にしたくない単語を繰り返して目を見開く悠樹に、シルクはくすりと笑ってみせた。
「悠樹様が元の世界に戻るまでお手伝いをする、と約束しましたからね。まずは三日後の十時、学科棟の歴史資料室でお待ちしております」
そう言ってシルクは器用に片目を瞑り、優雅に一礼して部屋を出て行った。