属性と術具-4
部屋の隅でお茶の用意を始めたアリアに代わり、シルクが解説を引き継ぐ。
「ヴェーテ家はエレクラインの中でも古い家系です。ヴェーテ家のおかげで、セルナディアと術師は共生するようになったと言っても過言ではないかもしれません」
「そうなの?」
「ええ。エレクラインは元々、霊峰ザナディアに隠れ住んでいた民族だったのですが、ある時大河フィオルの覇者であるレイオールが彼らの持つ特異能力に目をつけ、従属させようと兵を向けたのです。レイオールは当時―――」
スラスラと話し始めたシルクを呆気に取られて見つめる悠樹に、アリアは紅茶を差し出しながら、こそりと耳打ちをした。
「カザフリント教授は史跡探索を主に成果をあげられた歴史研究家なのです。ご専門分野ですので少々熱が入ってしまっているご様子ですね。」
そう言って、アリアが苦笑する。
悠樹も乾いた笑みでそれに答えて、熱弁をふるうシルクに視線を戻した。聞いたことのない単語が次々出てきているのだが、とてもメモを取る余裕はなく、話を聞くことに専念する。
「―――というわけで、セルナディアはエレクラインの民を受け入れ、エレクラインの民はセルナディアのために術を使い、術具を作ったと言われています。これを恩返しと見るか否かについては興味深い話があるのですが、それはまた別の機会に。今からでは夜になってしまいます。ああ、アリアちゃん。紅茶はそのままでいいですよ。ちゃんといただきますから。せっかく淹れてくれたのにすみません」
シルクがようやく一息ついた頃、さすがに日は暮れていなかったが紅茶はすっかり冷めてしまっていた。温かいものを用意しようとするアリアを止めてそれを一口含み、思い出したように手を打つ。
「忘れるところでした。実はこれをお届けに来たのです」
そう言って持参した箱を開け、中から布に包まれた物を取り出した。するすると布をほどくと、直径二十センチほどの金魚鉢のような形をしたガラスの容器が姿を現す。
「何、これ」
「響鳴箱ですか?」
二人の少女が同時に声を上げ、お互いに顔を見合わせる。その様子を見ながら、シルクは頷いた。
「ええ。響鳴箱です。なんと、刻音もあるんです」
どこか誇らしげに言いながら差し出したのは、直径五センチほどのガラス球だった。赤橙色のその球体を受け取って陽に透かしてみると、オパールのような遊色効果によってその色彩と表情を次々に変えていく。
「綺麗……。で、これ何?」
「記録の術具です。刻音を響鳴箱に入れると、記録された音が再現されます」
どうぞ、と容器を差し出され、赤橙色の刻音を近づけていく。その瞬間、ふわりとそれが悠樹の手を離れ、響鳴箱に吸い込まれた。
「あっ!」
(落ちる!割れる!)
ガラスの割れる音を想像して身体を引いた悠樹の目の前で、刻音は響鳴箱の中に落ち、そのちょうど中心の位置で止まった。まるで水に浮くウキのように、ふわふわと鉢の中央に留まっている。
「なになに、何これ」
「お静かに」
耳元でシルクに囁かれ、息をつめる。
その時、くるりと刻音が回転した。同時に、かすかな音が室内に響き始めた。