属性と術具-3
アリアの説明を聞きながら、悠樹はノートにその内容を書き付けていく。日本語ではなく、セルナディアの文字で。
日本語と同じ感覚でセルナディアの文字を扱えるのは便利ではあったのだが、『書きなれない文字』である以上、それが『読みやすい文字』になることはなかった。
つまりは、字が下手、なのである。
自分が悪筆であることを自覚して、悠樹は練習を兼ねて、セルナディアの文字をなるべく沢山書くようにしていた。残念ながら、そう簡単に成果は現れないようだが。
ノートに書き連ねた自分の文字に眉を寄せつつ、次の質問を口にする。
「時間属性と空間属性はどんな使い方をするの?」
「時間属性は食品や薬などの保存容器に多く使われています。空間属性は荷物の運搬が主な用途になっています。ただ、この二つの属性を得意とする術師は少ないので、術具の数も少なく、一般家庭にまで普及はしていません」
「ふーん。……そういえば、術師ってどれだけいるの?確か、その家系に生まれた人じゃないとなれないんでしょ?」
「ええ。今、術師を名乗れるほど力の強い方は十五人ほどだと思います」
「それだけ?!」
驚いて声を上げる悠樹を見つめ、アリアは微笑んだ。
「はい。術師はエレクラインと呼ばれる一族の中に発現する能力者なのですが、長い年月の中で血は薄まり、一族に生まれても力を持たない者が多いのです。私も両親も、能力は現れませんでした」
「そうなんだ……」
頷いてノートに“エレクラインの一族”と書き込む。そして手を止め、悠樹は目の前の少女を見上げた。
「アリア?」
「はい」
目を丸くして名を呼ぶ主を、アリアはにこにこを笑って見つめている。悠樹はそんな彼女を見つめて、やがて大きなため息をついた。
「術具とか属性とか、よく知ってるなーとは思ってたんだけど、アリアも術師の一族?」
「両親や祖父母も術師ではありませんから本当かどうかわかりませんが、エレクラインの血筋とは聞かされています。」
「アリアちゃんの生家、ヴェーテ家は間違いなくエレクラインの民ですよ」
突然、第三の声が室内に響いた。二人の少女が同時に扉のほうを振り向き、視線を集めた男は藤色の瞳を細める。
「何度かノックをしたのですが返事がなかったので。勝手に失礼させていただきました。すみません」
「まぁ、気付かず申し訳ありません」
慌てて出迎えに走るアリアを片手で制して、男は悠樹の前まで進むと片膝をついて頭を下げた。
「お久しぶりです、暁姫悠樹様」
「久しぶりー。でも、暁姫は止めて。自分じゃないみたいで嫌なの」
「わかりました」
くすりと笑って、シルク・カザフリントは手にしていた箱をテーブルに置いた。