白い世界-3
少年の言葉を聞いた悠樹の顔が、不信感も露わに歪められた。
それを斜め上の位置から眺めながら、少年はおもしろそうに目を細める。彼がいるのは五階建て校舎の屋上。設置された転落防止のフェンスに腰掛け、宙に浮かせた足をぶらつかせて言葉を続けた。
「三つ、選択肢をあげる。時間ないからささっと選んでねー。」
変声期前の幼い声が静かな空間に広がっていく。時間がないといいながら、その口調はひどくのんびりとしていて、それが悠樹を苛立たせた。
「その前に教えて欲しいんだけど。これって一体どういう―」
「マルいちー」
悠樹の質問を遮って、少年は続けた。
「このままひかれて人生を終えるー」
(助からないじゃない!)
ぐっと拳を握って憤りを堪えると、悠樹は大きく首を振った。それを確認して少年が頷く。
「マルにー。この静止世界で生きるー」
すぅっと、悠樹の顔から血の気が引いた。
自分が死ぬのは勿論怖い。だが自分以外が死んだような世界はもっと怖い。周囲を見回し、俯いて、悠樹はまた首を横に振った。
そして息を吐く。
二つの選択肢は誰が考えても拒否するだろうという内容だ。つまり、この声の主は初めから選択肢を用意していない。否応なく、最後の選択を選ばせるつもりなのだ。くっと顔を上げ、悠樹は次の言葉を待った。
悠樹の瞳に、絶望でも諦観でもない、覚悟と憤りを認めて、屋上の少年の口角が上がる。右手を顔の前にかざし、空気を混ぜるようにふわりと回すと、その指先を追うように金色の光が現れた。何もない空中に文字のようなものを書き連ね描きながら、少年は最後の選択肢を口にした。
「マルさーん。この世界を抜け出すー」
拍子抜けするくらい真っ当な選択肢を提示され、悠樹は顔を強張らせた。前の二つに比べて、それはあまりに悠樹に対して好意的で、逆に悪い予感がする。
頭の中で鳴り響く警鐘を聞きながら、悠樹はふ、と口元に笑みを浮かべた。眦を強くして、虚空を睨みつけ、口を開く。
「その代わり、って言わなくていいの?」
何かあるんでしょう。
言外にそう告げる悠樹に、少年は一瞬目を見開き、次いで声をあげて笑い出した。
「は、はははははははは。いいね、いいよ君。この状況でそれが言えるってすっごくいい!あっははははははは」
「……それはどうも」
憮然として答える悠樹の目の前に、ふわりと深い緑色が降りてきた。
無彩色の世界に急に広がったのは、緑色のローブ。校舎の屋上にいた少年は一瞬で悠樹の前へ降り立つと、そのローブを翻して翡翠色の瞳をきらめかせた。
「勘のイイ人は好きだよ。それじゃ、遠慮なく――」
弧を描く唇が、ゆっくりとその言葉を紡ぐ。
「“その代わり”、僕の友人にかけられた呪いを解いて欲しいんだ」
悠樹の眉間にはっきりと皺が刻まれるのを見て、少年はにっこりと笑みを浮かべた。