属性と術具-2
「お手洗いは水属性の術具で不浄を落とし、空間属性で浄化槽へ水ごと移動させます。浴槽は水属性で水を入れて火属性で適温まで沸かす、使用後は空間属性で浄化槽へ、と、複数の術具を組み合わせてあるんです」
「水?……あ、術具ってアレだ。シェリスの水龍」
聞き覚えのある単語に、悠樹の記憶が蘇る。あの夜、ファルシオが『術具の使用を許可する』と言い、シェリスが放ったのが『水龍』。膨大な量の水と、そこに秘められた巨大な力。それは恐怖として悠樹の心の中に残っている。
「まぁ。ご覧になったことがあるのですか?」
「ん……すごく、怖かった」
目を丸くして驚くアリアに頷く。ふるりと身体を震わせた悠樹に、そうですか、と思案げに呟きアリアは殊更に明るい声を上げた。
「水龍は使い手を選ぶ、少々特殊な術具です。それをご覧になって怖いと感じられたのなら、やはり悠樹様は術師の才がおありなのですわ。」
「……そうなの?」
「ええ。術師は術石の強さを感じ取ると言われております。悠樹様は、水龍の術石が秘める力の大きさに恐怖された。それは、術師として必要な資質です」
自信たっぷりに言い切るアリアに、悠樹の表情が緩む。二人の少女は顔を見合わせてくすくすと笑いあった。
「そうだ、術の属性って、他に何があるの?私が聞いたのは、時間属性、水属性、今の火属性、空間属性……」
用意してもらったノートに、悠樹は指折り数えながら属性の名を書き込む。アリアはそれを覗き込むと、さらに二つを書き加えた。
「風属性と地属性?」
「はい。火属性の術具は先程申し上げた通り、室内照明や湯沸し、調理場などに多く見られます。水属性も、お手洗いや浴槽、調理場、室内で水が必要とされる場所には必ず置かれています。地属性は建築方面、道路の整備や、建物の建築材料を作ったりする際に使われることが多いようです。風属性は馬車の速度や快適性を上げたり、伝達業務に使われます」
「伝達?」
「ええ。例えば……悠樹様にお渡しした呼び鈴、あれは風属性の術具です」
言いながらアリアは立ち上がり、窓際へと歩み寄った。そこに置かれた白い陶器のようなものでできた呼び鈴を手にして戻ると、悠樹に手渡す。
「でもこれ、全然音が鳴らないよ?」
「はい。この呼び鈴を振ると、私の鈴が鳴るようになっているのです」
そう言って指し示したのは、アリアがいつも左手首に巻いている小さな鈴だった。呼び鈴と同じ陶器のような素材でできているそれは、彼女がどんなに動いても音を立てることがなかったが、悠樹が呼び鈴を振るとそれにあわせてリリンと風鈴のような音を立てた。
「うっわぁ、おもしろーい」
「この鈴はお部屋付きメイドの証。お屋敷勤めの憧れでもあるんですよ」
「へー。ふふっ、綺麗な音だね」
室内は、鈴の音と二人の少女の笑い声で満たされていた。