属性と術具-1
悠樹がこのセルナディアに来て数日が経過した。
自力で元の世界に戻る努力をすると決めた悠樹は早速その勉強を開始しようとしたのだが、大きな問題がそこに立ちはだかった。教えを請う、“講師”が確保できなかったのだ。
ファルシオは毎日王城へ出かけ、国王と共に現在の世界情勢の把握に努め、周辺諸国との国交復帰のための情報収集と分析にかかりきりになった。
シルクは百年の間に起きた世界の出来事や影響、変遷を収集・整理・資料化するために学科棟に缶詰め状態らしく、あの東屋以降姿を見たという話は聞かない。
シェリスたち武器を扱える者は、城の周りの魔獣討伐と治安の確保のため、毎日敷地を出ているらしい。時折怪我をした部下を抱えて戻ってくる姿をみかける。
ローミッドは屋敷の使用人を仕切り、ファルシオを補佐し、傷を負って帰ってくる騎士たちの治療に人を割き、と涼しい顔で膨大な量の仕事をこなしている。
フィルドは術師のまとめ役らしく、彼らに指示を出して外国へ国王の書簡を届けたり諜報役を割り振ったりと、悠樹をからかう暇もなく働いているらしい。
(百年ってことは、第一次世界大戦より前か。明治時代の人が平成に集団タイムスリップしたと思えば……そりゃ大変だよね。色々と)
彼女にしかわからない方法で周囲の混乱を把握すると、悠樹は日中ほとんどの時間を一緒に過ごすアリアを話し相手に、この世界の常識を学ぶことにした。
そんな中、悠樹はアリアに告げられた事実に驚きの声を上げることになった。
「電気がない?じゃ、あの明かりとかは何でできてるの?」
「室内照明などはすべて術具でまかなわれています。」
「術具?」
(なんだっけ。どこかで聞いたような……)
眉間を押さえて考え込む悠樹に、アリアが続ける。
「術具は、術師様がなんらかの術をこめた術石を内部に設置した道具です。例えば、照明は火属性の術石がその中に収められていて、発動の合図で火が灯ります。このお部屋ですと、あとは浴槽やお手洗いも術具ですね」
「ああ、そういえば。トイレもお風呂も、水道やタンクがないのにどこから水が来るのか不思議だったんだ」
アリアの説明にポンと手を叩く。
どこからみても中世ヨーロッパ風の建物なのに、奥の個室にあるのは水洗(っぽい)トイレだ。用を済ましたら蓋をするだけで、水音と共に排泄物が綺麗さっぱりなくなってしまう不思議構造。
とはいえ、自分が今まで使っていたトイレの仕組みを熟知していたわけではない悠樹にとって、便利でさえあればどれも同じ。数回使用するうちに、不思議がることもなくなっていた。
今更のように言う悠樹に、アリアは楽しそうに解説を始めた。
ここから数話、術の属性とそれを使った道具(術具)の説明が続きます。