一筋の光明-4
信じられないことを簡単に告げられ、悠樹の思考回路が一旦完全に停止する。
「とんでもないお話ですね」
「だって事実だもん。とんでもないのは今の話じゃなくて、それを平然とやってのけた悠樹だよ」
「いろんな意味で規定外だな。さすが暁姫と呼ばれるだけのことはある」
好き勝手言い合う声を聞きながら、混乱する頭を抱えてテーブルに突っ伏した。様々な疑問が浮かんでは消え、消えては浮かぶ。
(私が自分で時間を止めた?でも、そんなこと今まで一度だってできなかったのになんで?……なんで急にそんなことができるようになったの?)
混乱を極めた思考は、ある一点を超えた瞬間突然極端に走ることが多い。悠樹もその例に漏れず、ぷつん、と何かが切れた音と共に、すっと顔を上げた。なにやら言い合っていた三人がそれに合わせて彼女に視線を集める。
「とりあえず、保留」
「「「は?」」」
三人が同時に声をあげるが、悠樹はぐりんと首を回してフィルドを視界に捕らえた。
「混乱するから、全部保留。それよりもっと切実な問題があるんだけど、それについて教えて」
フィルドを見つめる悠樹の目は、明らかに据わっている。
今は逆らわないほうがいい、そう悟った男たちは黙って頷いた。
「言葉が通じるのは、フィルドが何かしたから?」
「うん。不便でしょ?会話ができない。」
「確かに。言葉が通じなかったら発狂してるよ、こんな状況。……じゃあさ、文字も読めるようにならない?その、異世界トリップ便利機能みたいなので」
「何そのセンスないネーミング。……あれ、読めない?」
驚いたように聞き返す術師と他四人の視線を受けて、悠樹は我に返ったような表情を浮かべ、そして頬を染めて頷いた。
「おかしいなぁ。会話はできてるんだし、言語チャンネルは合ってるハズなんだけど」
不思議そうに呟いて、フィルドは小さく首を傾げた。
「元の世界では、読み書きはできた?」
「うん。……古文とか、外国語とかはアレだけど」
後半をごにょごにょと口の中で呟く悠樹に、フィルドは納得したように頷いた。
「そういうことか。じゃ、“文字”って字を思い浮かべて目を閉じて」
「うん……うん?」
頷きかけて、ことりと首を傾げる。
文字を読むことと目を閉じることの関係が見えない。が、「いいから。」とだけ言われて諦めて言われた通りにする。
(文字文字……う、もじ?モジ?文字?……どれだろ……)
三種類の表記のどれのことだと考えているうちに、すっと目蓋が小さな手で覆われた。そこから温かな熱量を感じ、同時にフィルドの囁きが聞こえ、すぐに消える。
「はい、これでどう?」
言葉と同時に差し出された本に視線を落とす。表紙に記載されたミミズ文字に変わりはないが、それが意味する言葉はなぜか理解できる。悠樹は大きく息を吐いて首を振った。
「すごい」
「大丈夫みたいだね。これで公用語の読み書きは問題ないはずだよ」
そう言って、フィルドは席を立つと、先程まで座っていた卓に戻り、放置していたチェスを再開した。