一筋の光明-2
シルクの話は続く。
「だから時間属性が得意な術師の力を借りるのです。フィルド様の次元転移で元の世界に戻り、もう一人の術師があなたが命を落とさずにすむ所まで時間を逆行させる。この二つの術を同時に行わなければ、あなたは元の世界で生き続けることができない」
「そうそれ。それを言いたかったの」
「全然違う話にしか聞こえないんですけど?!」
あははは、と声を上げるフィルドに突っ込んで、でも、と呟く。
(ただ“元の世界に帰る”だけじゃダメだっていうのはわかる)
納得したように頷く悠樹を見ながら、フィルドは常人の五倍近い砂糖を入れた紅茶をすすり、さらに砂糖を投入する。そうしながら、そういうわけで。と、その場にいる全員の視線を自分に集めた。
「悠樹、術師になってみない?」
それを聞いて、その場の全員が絶句する。しんとした空気に、悠樹が一人きょときょとと首を巡らせた。
「なれるの?」
「本来は、術師の一族に生まれた人しか、なれないはずなんだけどね。どういうわけか悠樹は術師の素質があるみたい。……なんで?」
「私が知るわけないでしょ?」
周囲を置き去りに、暢気な会話が続く。
「悠樹が術師になって、時間を逆行させることができるようになれば、あとは僕がちゃんと届けてあげる。まぁ数年はかかるだろうけど、その間に気が変わったらここに永住すればいいんじゃない?衣食住はファルが、というか、王室が保証してくれるんだし」
砂糖の味しかしないであろう紅茶をおいしそうに飲んで、フィルドはにこにこと笑う。その笑顔を胡乱げに見てから、悠樹は僅かに視線を落とした。親指を口唇にあてて考え込む。
(このままこの地で過ごす覚悟を決めるか、自分で元の世界に戻るための努力をするか、ってことよね。最近二択が多すぎ…………でも、今回のはまだマシ、かな)
ふ、と口元に笑みを浮かべ、悠樹は、わかった、と呟いた。
「自分で頑張るって方法があるなら、やるだけのことはやるよ」
「ずいぶんと前向きだな」
「ええ。元の世界に戻れば死ぬ、なんて言ったら、もっと落ち込むと思いましたよ」
ファルシオとシルクが感心したように言う。悠樹は彼らに向かって肩をすくめてみせた。
「もう十分落ち込んだもの。それに、私の国に果報は寝て待てって言葉があるの」
「ほう……それは俺に対する嫌味か」
一瞬細められたファルシオの目に、ちらりと剣呑な光が宿った。