一筋の光明-1
悠樹は知る由もないが、今東屋に集まっているのは彼女を含め錚々たるメンバーだった。
セルナディア王国皇太子、ファルシオ・ディアス・セルナディア。
セルナディアが誇る最高位の術師、フィルド・ローラン。
歴代最年少で国立学科大学の客員教授に招かれた、シルク・カザフリント。
国内一二を争う剣の使い手として名を知られる王国近衛騎士、シェリス・ウィルダー。
ファルシオの参謀として国王の覚えも良い執事、ローミッド・パラフィム。
そして、ファルシオの眠りの術を解いた暁姫、築島悠樹。
それぞれが持つ知識で悠樹が元の世界に戻れるよう、力を貸して欲しいと言うファルシオに合わせて悠樹も頭を下げる。黙ってその話を聞き、もっともな意見を述べたのはシルクだった。
「それなら、フィルド様がもう一度次元転移を行えばよいのでは?」
「それができれば、いいんだけどね」
大量の砂糖を投入した紅茶をぐるぐるとかきまぜながら、名指しされた少年術師が答える。
「そんなに単純な話じゃないんだなー」
「なぜですか?」
「それやると、悠樹が死んじゃう」
ごふっと妙な音をたてて、悠樹が盛大にむせた。乱暴にソーサーにカップを戻して咳き込む悠樹と、慌ててその背をなでるファルシオ。冷静にテーブルに飛び散った琥珀色の液体を拭き取るローミッドと、悠樹に駆け寄ったはいいが何もできずにうろうろと後ろを歩きまわるシェリス。
慌しい四人には構わず、シルクは首を傾げた。
「次元転移の他に、何か障害があるということですか」
「そ。時間属性が得意な術師を探さないと、無事に帰してあげられない」
「それはまた、難しい条件ですね。……どうされました、悠樹様。大丈夫ですか?」
思案げに頷き、ふと悠樹を見て目を丸くする。涙を浮かべてせきこんでいる悠樹にハンカチを差し出し、シルクはファルシオを睨みつけた。
「ファル、悠樹様に何をしたんだい」
ファルシオは謂れのない非難を黙殺し、悠樹が落ち着くのを待ってフィルドへ向き直った。
「わかるように説明してくれ。なぜ、悠樹が死ぬんだ」
「僕、時間属性は苦手」
一言で答えて、フィルドはまたシュガーポットへ手を伸ばした。それ以上の説明は期待できないと悟ったファルシオが、シルクへと向き直る。
「シルク、通訳」
「はいはい。これは私の想像ですが、悠樹様は元の世界で命を落とした、またはそうなるような危険な状況になっていたのだと思います」
「……」
シルクの言葉に悠樹は無言で頷いた。白い世界やら異世界やら、不思議な体験が続いているが、元々はトラックにひかれそうになったところから始まっているのは確かだ。
悠樹の反応を確認して、シルクの話が続く。
「もし、次元転移を行って元の世界に戻った場合、世界の理に従って時間は進みます。元の世界に戻ることによって、死に瀕していたあなたは本当に死んでしまうことになるでしょう」
そこで一度言葉を切り、シルクは蒼白になった悠樹に微笑みかけた。
ローミッドは認知度の高さと語感の良さから「執事」としていますが、バトラーではなくスチュアード(家令)に近いものと思ってください。
主人の私的秘書であると共に、使用人の雇用・解雇や賃金支払い、屋敷の管理などの一切を行う使用人の統括職です。