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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
31/166

出会いと再会-5

「それで、お前はいつまでアレを無視しているつもりだ?」

 アレ、と親指で示され、その先に視線をやって悠樹は盛大に顔をしかめた。

 シェリスとは反対側の隅の卓に、一人ぽつんと座っている少年の後ろ姿がある。黒い髪は陽が当たったところだけ深い緑色に光っている。暗緑色のローブを隣の椅子にかけ、今はクリーム色の長衣を風に揺らしている因縁の相手は、頬杖をついてチェス盤のようなものを見つめていた。

 悠樹は小さく首を振って問いかけてきた男を仰ぐ。

「話したくない」

「それはまた……ずいぶんと嫌われたな」

 ファルシオは小さく笑い、ローミッドを見上げる。主人の意図を汲んだらしい男が少年へと近づいていった。

「ちょっと、ファル王子?」

「あいつは拗ねさせると厄介だぞ。適当に機嫌とっておけ」

 愉快そうに言って優雅な仕草でカップに口をつけるファルシオを睨みつけ、すっと視線を動かした瞬間、何事かを囁かれてこちらを振り向いた少年と視線が合った。

(話したくないんだってばー!)

 顔を引きつらせた悠樹と対照的に、少年はにっこりと笑って見せた。すぐに立ち上がり、軽快な足取りで悠樹のそばへと歩み寄る。

「おはよう。少しは機嫌、直った?」

「直らない。直ったけどまた悪くなった」

「ん、なんで?」

 ぶすっと答える悠樹に、少年が無邪気に邪気をまく。

(アンタの顔見たからに決まってるでしょー)

とは言えず、悠樹はにこりと笑って見せた。

「ご高名なフィルド・ローラン様とは知らず、昨日は大変失礼いたしました。お会いできて光栄です。私ごときがフィルド様とお話するなんて身に余る幸運ですわ。幸運ついでに、私を元の世界に戻してもらえるととってもうれしいですねー。今すぐ。ここで。ただちに。遠慮は要りませんから、さあどうぞ」

 くっ、と両隣から押し殺した笑いが聞こえてきた。悠樹自身、こんな子供に大人気ない、と思わなくもないが、滑り出した言葉は止まらない。

 だが、少年は勢いの良い長台詞に一瞬目を見開いたものの、すぐに声を上げて笑い出した。

「やっぱり悠樹ってかわいいね」

「なっ!」

「ますます気に入っちゃった。これからよろしくねー」

(全、然、よろしくしたくないっ!)

 ひらひらと手を振っている目の前の子供を見下ろして、悠樹が心の中で叫ぶ。

「厄介なのに気に入られたな」

 その様子を眺めていたファルシオが苦笑する。嫌味が通用しない相手に頭痛を覚えつつ、悠樹はため息を吐く。

「気に入られても拗ねさせても厄介なのには変わりないじゃない。この子が最高位の術師(デフィーノ)ってどんだけ人材不足なのよ、この国」

「フィルドは俺が子供の頃からこの姿だ。外見と性格はアレだが、おそらくここにいる誰よりも年寄りだぞ」

「年寄りじゃなくて年上って言って。外見と性格はアレって何。ファル、ひどすぎ」

 ぷくっと頬を膨らませて見せてから、“セルナディアが誇る最高位の術師”は破顔する。視線の先には、ファルシオの言葉に絶句し、目と口を大きく開けた悠樹が佇んでいた。

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