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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
3/166

白い世界-2

「……なんなの、コレ」

 ふらりと後ずさる。その違和感に悠樹はまた、息を飲んだ。

 足は確かに動いた。それなのに、トラックとの距離は変わっていない。

 もう一度。視線を落とし、足下を見て。

(右……左……)

 左右の足を交互に動かし、二歩、後ろに下がる。下がった、はずだった。

 だが顔を上げてみれば、そこには相変わらずトラックがあった。

「……なんで?」

 友人たちが待つ向かい側へ歩き出してもトラックは常に隣にあり、横断歩道を渡りきることはできない。自然とその歩みは早足になり、駆け足になり、やがて狂ったように走りだすことになっても、その状況が変わることはなかった。

(なんで?どうして?)

 答えのない問いが口をつく。泣きそうになりながら周りを見渡しても、白い群像は何も言わず、何も動かず、ただ、変わらずそこに存在しているだけだ。

「誰か!誰かいませんかー!」

 たまらなくなって叫ぶ。

「いませんかー……いませんかー」

 答えるのは、ヤマビコのように反響する、悠樹自身の声。それが、この世界にたった一人きりなのだと突きつけるようで、悠樹はまた走り出した。

(嘘。なんなの、これ)

「誰か答えて!返事をして!」

「えて……をして」

 こだまする自分の声と息遣い。それだけがこの世界に存在するすべてのような気がしてくる。

 どこにも行けない。

 だれも答えない。

 何も、変わらない。

(やだ……やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ)

 滲む視界を認めないために目を見開き、不安を言葉にしないために唇を噛み、悠樹はひたすら足を動かした。走って、走って、走り続けて、そしてぴたりと立ち止まった。

「こんなのやだよ。……誰か助けてよ!!」

 気が狂いそうな静寂の中で呟いた時。

「助けてあげようか〜?」

 突然、恐ろしく暢気な声が聞こえた。

(え……今、なんて……ていうか……)

「誰か、誰かいるの?」

 何重にもエコーのかかった声はどこから話しかけてきているのか判断がつかない。左右を見渡しながら、悠樹は姿の見えない相手に話しかけた。

「いると言えばいるのかもしれないけど、いないと言えないこともない、かなぁ」

(どっちだよ)

 思わず心中でツッコミを入れる。だがそれは、それだけ悠樹の心に余裕が戻った証拠。言葉を交わす事のできる存在が、このモノクロ世界にいるということに少しだけ安堵して、小さく息を吐き出した。そして顔を上げる。

 戯れのように言葉を紡ぐのは子供の声。悠樹から見える範囲にはそれらしき姿は見えないが、自分以外の存在を感じられた事は、悠樹にとって大きな一歩だ。たとえ実際には、1ミリも動けていないとしても。

「これ一体どうなってるの?本当に助けてくれるの?」

 声が通るように少し上を向いて話しかけると、声の主は小さく笑った。

「助かるかどうかは君次第。このあとの人生、君に選ばせてあげるよ。」

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