出会いと再会-3
「それで、どうやってここに?」
東屋に入り勧められるまま席に座ると、ファルシオは思い出したように問いかけてきた。
「あー、それは……その……アリアにね、」
「アリアから、悠樹様がお部屋で退屈されていらっしゃるご様子だと聞いたものですから、私の判断でこちらにご案内させていただきました」
その言葉に驚いて振り返ると、ローミッドは微笑みを浮かべて小さくうなずいて見せ、ジャムの添えられたスコーンと紅茶を差し出した。
言いかけた言葉は、目の前を横切るその皿とふんわりとした甘い香りによって封じられ、悠樹はそれを追いかけるように視線をテーブルに戻した。
(そういえば、昨日学校でお昼食べてからまともに食べてない?)
気付いてしまえば、自然とこみ上げてくる空腹感。
こくり、とのどが鳴った。
「なんだ。言ってくれれば俺が迎えに行ったのに……」
何やらぶつぶつと呟くファルシオには構わず、スコーンを口に運ぶ。
「~~~~~!!」
マーマレードの甘さとさっくりとしたスコーンは絶品で、悠樹は言葉を失った。バタバタと足を鳴らして喜びを表していると、す、と左隣の椅子が引かれた。
「女性に言われる前に気付かないから、ファルは駄目なんですよ」
笑みを含んだ声が響き、空いたスペースに一人の青年が身体を割り込ませた。膝をついて悠樹と視線の高さを合わせると、柔らかく微笑む。
「はじめまして、悠樹様。お目にかかれて光栄です」
少し長めの薄紫色の前髪の向こうで、藤色の瞳が愉快そうに細められている。ほっそりとした顔立ちは女性的だが、囁く声はぞくりとするほど低く深みのある男声だ。
「私はシルク・カザフリントと申します。どうぞ、シルクとお呼びください」
そう名乗り、ごく自然な動作で悠樹の手を取ってその甲に口唇を寄せる。それが触れる直前、悠樹の身体が後ろに強く引かれた。
よろける悠樹を後ろから腕の中に閉じ込めて、ファルシオがシルクを睨みつける。
「いきなり口説くな」
「おやおや。ただの挨拶ですよ」
「挨拶で手を取る必要はないだろう。これだからお前は信用できない」
「ずいぶんなお言葉ですが、珍しいものが見れましたから、まあいいでしょう」
「何?」
「まさかあのファルが、女性を後ろから羽交い絞めにするとはね」
ひっそりと笑ってみせるシルクの言葉に、ファルシオは自分の腕に視線を落とした。そこには、ファルシオに抱かれるような体勢の悠樹の姿。
わずかに顔を赤くしたファルシオは、それでもその腕をほどくことはなく、シルクに向かってにやりと笑い返した。
「食い物に負けて無視され続けるお前のほうが、よっぽど珍しいと思うが?」
「それは貴方も同じでしょう」とは言えず、我関せずとスコーンを頬張る悠樹と、どこか勝ち誇ったような顔をするファルシオを見比べて、シルクはその顔に苦笑を浮かべた。