出会いと再会-2
ローミッド・パラフィムと名乗ったその男性に案内され、広間の先にあるガラス張りのテラスを抜けると、そこは広々とした庭園だった。
中央に大きな噴水があり、その周りに背の低い植木が植えられている。樹木の緑と白い小石が敷き詰められた地面は幾何学模様を描くように配置されていて、ひどく幻想的な風景を作り出していた。
一見するとそれらは噴水を中心に対称のように見えるが、花の色や描かれた模様、それをとりまく高低さまざまな樹木はすべて異なっていて、まったく同じものはなく、絶妙なバランスをもってデザインされている。
テラスから延びている道はまっすぐに噴水へ向かい、それを一周して人工だという奥の池へと続き、そこから左右に分かれて東屋と並木道へとそれぞれ続いているようだった。
そのデザインや造り、並木道の向こうにある王宮や植物の名前などの解説を聞きながら東屋へ向うと、そこにいくつかの人影が見えた。その中央にファルシオを見つけて、悠樹は足を止めた。
何を話しているのか楽しげな顔がこちらに向けられ、その表情が驚きに変わる。すぐにに東屋を飛び出すと、ファルシオは悠樹の元へと駆け寄って来た。
「悠樹?もう起きても大丈夫なのか」
昨夜投げつけた言葉など気にもしていない風なファルシオの態度に一瞬だけ目を見張り、あわてて悠樹は頷いた。
「平気。…………昨日はありがとう。あと、ごめんなさい」
小さな声でそう答えると、ファルシオは難しい顔をして悠樹を見下ろしていた。
怒りは伝わってこないが、何かを言おうとして言えずにいる様子に、悠樹の心が深く落ち込む。
(やっぱり傷つけたんだ……)
ファルシオを見ることができず、うつむいた瞳からまた涙が出そうになる。
「あの、私部屋に―」
戻る、と言いかけた悠樹を遮ったのは、ファルシオの言葉だった。
「ローミッド。悠樹に何か食べるものを用意しろ」
(は?)
「わかりました」
(え?)
意味がわからず見上げると、ファルシオは先程と同じ、難しい顔をしたまま横を向いていた。金色の髪からのぞく耳が赤く染まっている。
「何か食え。お前がそんなに殊勝なはずがない」
(はずがない……って……)
ぶっきらぼうなファルシオの言葉に、ふ、と口元に笑みが浮かぶ。それは徐々に顔中に広がり、悠樹はやがてくすくすと笑い出した。
「私、どんだけ失礼な人だと思われてんの?」
「少なくとも、初対面の俺にバカと言うくらいには失礼な女だろう」
「初対面の私にプロポーズする人よりはマトモだと思うんですけど?」
ぎゃいぎゃいと言い合いながら、ローミッドに促されて東屋へと向かう。ファルシオの態度と言葉は、自分に気をつかわせまいとする彼の想いが滲んで見えるようで。
悠樹はもう一度心の中でファルシオに頭を下げた。
(…………ありがとう)