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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
27/166

出会いと再会-1

 それから数十分後。

「脱走した次の日に一人で歩かせてくれるって、すごく寛大だとは思うんだけど―」

悠樹は壁に向かって呟いていた。

「どこよ、ここ」

くしゃりと、手にした紙を握りしめる。


 案内するというアリアに、自分で散策するから大丈夫と告げて邸内の探索に乗り出した。

 それはいいのだが。

 昨夜はすぐに見つかったはずの階段に辿りつけない。渡された邸内見取り図を開いても、部屋の名前が書かれているのであろう文字が読めない。来た道を戻ってみたが、似たような扉のどれが自分の部屋なのか、言い当てられる自信もない。

 ようやく見つけた階段を下りてみれば、上質なカーペットで覆われていた上の階とは異なり、板が張られただけの簡単な造りの廊下が続いている。

 気付けば。

 現在地もわからない完全な迷子となっていた。

(とにかく、部屋に戻るか、誰かを見つけるかしないと)

 このままでは、また屋敷を抜け出したと勘違いされかねない。

 とりあえず、左右どちらかへ進もうと首をめぐらせた時、すぐそばの扉が開いた。次いで、きっちりと黒のフォーマルを着た男性が姿を現す。

 悠樹よりも数歳年上に見えるその人物は、立ちすくんでいる彼女に気付くと一瞬目を見張ったが、すぐに笑みを浮かべた。

「このような所で、いかがなさいましたか?」

 柔らかな声質と落ち着いた話し方、そして顔に浮かんだ穏やかな笑みに、悠樹を怪しんでいる様子は伺えない。不審者とは思われていないことに胸をなでおろし、悠樹はその男性に近づいた。

「あの、お屋敷の探索、というか……えっと、その」

「左様でございますか」

 邸内で迷子になったとはさすがに言えず、歯切れ悪く返すと、男性は思案げに頷いた。その視線が握り締めた見取り図を捕らえ、そして悠樹の背後にある、降りてきたばかりの階段へと動く。

 全て見抜かれているような居心地の悪さを感じて、くしゃくしゃになった見取り図を後ろ手に隠した。

 それに気付いたのか、男性の顔に笑みが浮かんだ。

「それでしたら、是非ご覧になっていただきたい場所がございます。よろしければご案内いたしましょうか」

「いいんですか?!」

 差し出された救いの手にぱっと顔を上げれば、白銀の髪の向こうからのぞく青い瞳と視線が合った。透明度の高い海のように澄んでいて、それでいて底のない深さを持った不思議な色合いにドキリとする。

 が、その光はすぐに笑みの中に消え、

「もちろんです。こちらへどうぞ。」

白い手袋に包まれた手に指し示されるまま、悠樹は廊下を歩き始めた。

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