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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
26/166

自己嫌悪の朝

 翌日。

 目蓋を冷やしながら、悠樹は一人、あてがわれた部屋に閉じこもっていた。

「なんであんなこと言っちゃったかなぁ」

 ぽつりと呟いて濡らしたハンカチを目元から外す。大きな鏡台に映るのは、自己嫌悪にゆがんだ自分の顔。

「……不細工」

 はぁ、と大きくため息をついて鏡台を閉じ、ベッドへ倒れこむ。

(言うべきじゃなかった。)

『私が帰るのはあんな立派なお屋敷じゃない』

     だから、私は飛び出した。帰りたかった。

『私の事を心配して待ってるのは、あのお屋敷にいる人じゃない』

     だけど、彼は追いかけてきた。心配だと言った。

『ウチに帰して……帰してよぉ……』

     そして、私は―――

(彼を……傷つけた…………)

 ごろりと仰向けになり、手の甲で目元を覆う。

「…………最低」

「そんなこと、仰らないでください。」

 独り言に返ってきた声に驚いて起き上がると、アリアが寝室へ入ってきたところだった。手にしたトレイをベッドサイドに置き、悠樹の顔を覗き込む。

「腫れは引いたようですね」

 よかった、と笑みを見せるアリアの目蓋も、若干腫れていた。

 昨夜、ファルシオと共に屋敷に戻った時に見た泣き顔は脳裏に焼きついている。

 自分が至らなかったから

 一人にさせてしまったから

 もしも万一のことがあったら

 自分を責め、悠樹の身を案じ、そして安堵して涙する少女を抱きしめて、悠樹もまた涙を流していた。

 心配かけてごめん

 急にいなくなってごめん

 目の前の少女と、遠い世界にいる大切な人たちへ、何度も繰り返して。


 そうして向かえた翌日。

 寝不足と泣きすぎでむくんだ顔を鏡の中に見つけて、悠樹はがっくりと肩を落とした。「異世界から帰れなくなった」ことよりも、「泣きすぎてひどい顔をしている」ことのほうに絶望している自分に気付いたのは、目蓋を冷やし始めてすぐのこと。冷静になってみれば、昨夜の自分に対して落ち込むのは当然ともいえた。

 密かにため息をつく悠樹に気付かないフリをして、アリアは閉められたままのカーテンと円形アーチ付きの窓を開いた。日の光と暖かな風が室内に入り込み、陰鬱な雰囲気をかき消していく。

「少し散歩に出られてはいかがですか。お天気もいいですし、外を歩けば気分も晴れますわ」

 クローゼットを開けながらアリアが言う。

 彼女が勧めるドレスやドレスやドレス……をすべて却下して、悠樹は比較的丈の短い、動きやすそうなワンピースに手を伸ばした。


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