暁姫-3
悠樹の質問に、アリアは少し考えるような仕草をしてから首を振った。
「申し訳ありません。呪いを解く方法は私も存じません。でも、フィルド様が悠樹様を選ばれたのですから、悠樹様は暁姫として必要なものをお持ちだったのだと思います」
(必要なものって……石頭、とか?)
まだ痛む額を押さえ、悠樹はふと、聞き覚えのある単語を繰り返した。
「……フィルド?」
それはファルシオが言っていた『術式の責任者』の名。悠樹の今の状況を作り出した本人だろう。つまり、誰よりも悠樹の敵と呼ぶに相応しい人物だ。
心中に苦いものを抱く悠樹とは裏腹に、アリアは目を輝かせて何度も頷いた。そして、今までで一番生き生きと語り始める。
「フィルド・ローラン様は、王子の不幸の呪いを眠りの術に転化させた、セルナディアで最も高位の術師様です。少しも気取った所がなくていつもにこやかで、メイドの中でも人気が高いんです。実は私も、密かにお慕いしているんですよ。そうそう、先日も東方の国の―」
何かのスイッチが入ったのか、アリアは頬を紅潮させて語り続けている。よほど心酔しているようだが、悠樹にとっては元凶以外の何者でもない以上、その意見に賛同する気には到底なれず、悠樹は質問を重ねた。
「その人、今も生きてる?」
「もちろんです。もうお会いになっているではありませんか」
アリアの言葉に、悠樹の目が丸くなる。
「え?……会ってないよ?」
悠樹の言葉に、アリアも目を丸くする。
「え?……先程、ご一緒でしたよ?」
二人は揃って顔を見合わせ、首を傾げた。
悠樹がアリアに会ったのはこの部屋に通された時だ。
(あの時一緒にいたのはファル王子と――)
と思い出し、悠樹ははっとしてアリアを見つめた。思い当たったらしい悠樹の表情に、彼女は何度も頷く。それを確認して、悠樹はふ、と笑みを浮かべ―
拳をソファに叩きつけた。
(あのクソガキィィィ!!)
にこにこと感情の読めない笑みを浮かべる少年術師。
彼の名前を最後まで聞こうとしなかった自分も腹立たしいが、術の責任者とファルシオに言われても名乗らなかった強かさが何よりも憎らしい。忘れたくても忘れられない顔をソファに投影し、悠樹は何度も拳を振り下ろした。