表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
番外編 ~本編後日談~
164/166

解術 術師の…-3

 悠樹の言葉に、フィルドも頷く。



「…………わかった。」



 イエルシュテインに赴いた悠樹が何を見つけたのかはわからない。だが、フィルドが助けられるのがリジュマールの肉体に対してのみである以上、リジュマールの精神に働きかけるモノがあるというのなら、それはフィルドにとっても試してみる価値はある。



「リジュに聞かせたい音を中心に空間を隔絶して。悠樹は結界の外。中に入っちゃダメ。」


『わかった。……えっと、拘束系でも平気?』


「中のモノを壊さなければなんでもいいよ。コレだって、僕が物と場所を特定するだけだから。」


『あぁ、そっか。』



 術言(デスペル)が囁かれ、悠樹の隣に小さな結界が現出する。両の掌で支えられる程度の小箱のようだが、複雑な術式の気配にフィルドの顔に苦笑が浮かんだ。



「ずいぶん複雑な術具(デック)だね。キミが作った、はずないよね?」


『作ったのはリジュ本人みたい。私はその中身をちょっと書き変えただけ。』


「そう。で?これ、預かっていいんだね?」


『うん。……届いたら、リジュの傍で蓋を開けて。そうしたらきっと、リジュの力になるから。』


「はいはい。」



 ふつりと会話用に繋いでいた空間を切り、代わりに悠樹の結界ごと小箱を引きよせた。静かになった室内で、悠樹の結界を解いて中から小箱を取り出すと、先程悠樹がしたようにそこにかけられた術式を読み解いていく。



(……過去の空間を切り取って閉じ込める、か。刻音(ロウ)に映像を追加したようなものかな。(ウル)属性は音声の拡声だから響鳴箱(カノン)の役割か。これで、何が変わると言うんだろうね。あの娘は……)



 くすりと笑い、手を翻す。その一瞬の動作で小箱はフィルドの手から消え失せ、結界の中で蹲るリジュマールの足元へと移動した。髪をかきむしるようにして身を伏せていた赤髪の術師(デフィーノ)はその小箱を視界に止めると、ピタリと、その動きを止めた。

 信じられないと首を振り、はっとしたようにこちらを見つめる紅色の双眸に頷くと、フィルドはその箱を開けるように身振りで示した。

 震える手が小箱に伸び、そして箱を開く。だがリジュマールはそれをすぐに閉じると、両手で抱えて胸に抱きしめた。俯いた肩が小刻みに揺れるのを見て、フィルドはリジュマールに背を向ける。



「悠樹……」


『フィルド!渡してくれた?!』


「うん……。キミの選んだ答え、正解だったみたいだよ。ありがとう、僕の暁姫(エイル)。」



 パタン、と後ろ手に研究室の扉を閉じ、フィルドはそこに背を預けた。快哉を叫ぶ少女の華やかな声を聞きながら、彼は独り、ゆっくりとその瞳を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ