解術 王女と暁姫の…-5
「エルシャ姫がどこまで知っているのかわからないんだけど……ごめん。今リジュが苦しんでるのは、私のせいなの。」
エルシャが落ち着くのを待って、悠樹は彼女にそう告げた。だが、エルシャは緩く首を振ると、手にしたタオルを握り締めた。
「悠樹様はあの人の不老の呪いを解いてくださったのでしょう?その影響で、本来解けるはずのない身体の呪いが反応したのだと聞いています。悠樹様のせいではありませんわ。」
「……それでも、ごめん。」
もう一度頭を下げる悠樹に、エルシャから苦笑が漏れる。
「もうお気づきなのですね?」
「うん。……ついさっき、エルシャ姫の様子が昨日の午後急におかしくなったって聞かされて、やっとわかった。」
「そう、ですよね。ではお父様にも……?」
「ん。たぶん、ね。」
アルマンの様子を考えれば、たぶん、ではなく、確実に気付いているだろう。ぼやかした言い方をしたものの、悠樹の表情からそれを察したのか、エルシャは小さく肩を落とした。
「しかたがありませんわね。取り乱した私のミスですわ。……あの、悠樹様。実はお願いがあるのです。お父様には内緒で。」
「お願い?何?」
「あの人に、届け物をしていただきたいの。」
そう言って、エルシャは顔を上げた。ショールが背中へと流れおち、真っ赤に泣きはらした瞳が現れる。だがその顔は、今まで見た中で、最も彼女らしく美しく悠樹の目には映っていた。
「私にできることがあるのであれば、全てを投げ打ってでもそれに尽くしましょう。ですが……私にできることなど何もない。それはわかっているのです。」
じわりと彼女の瞳に新しい雫が湧き出てくる。それが零れ落ち、新しい筋を頬に描くのを見つめながら、悠樹は彼女の言葉を待った。
「私にできるのは祈ることだけ。ですから、祈りを届けていただきたいの。」
「祈りを……届ける?」
頷いて、エルシャは立ち上がった。書物机の引き出しを開いて中から何かを取り出すと、それを手に戻り、悠樹へと差し出した。
「以前、あの人が私に贈ってくれたものです。」
そう言いながら、エルシャはそれを覆う柔らかな布を解いていく。中から現れたのは、木製の小箱。幅15センチ、奥行10センチ、高さは5センチくらいだろうか。天板は唐草模様の彫刻が施されており、その中央には黄金色の玉が嵌めこまれてはいるものの、王族が持つには若干質素にも感じられる。
だが、悠樹の目はその箱に釘付けになったままだ。それは彼女たち術師にしかわからない、その箱の異様さにあった。
(時間属性の術式と空間属性が複雑に絡み合ってる?違う、時間属性を空間属性が包んでるんだ。……すごい、こんなの見たことない。箱の四隅に配置されているのは風属性だけど……なんのために?)
「これは?」
「ふふ、開けてみてくださいな。そして手伝ってください。これを書き換えるには、術師である悠樹様のお力が必要なの。」
差し出された小箱とエルシャの顔を見比べて、悠樹はそっと、その小箱の蓋に手をかけた。