解術 王女と暁姫の…-3
感情を表に出さないアルマンにしては珍しく、そこに自責の念が浮かんでいるのが微かに見える。以前、一度だけ見たことのある父親としての表情に、悠樹はもう一度笑顔を浮かべた。
「ええ、多分。アルマン陛下も、もうお気づきなのでしょう?」
「おそらく、な。……こうなる前に気付いてやれればよかったのだが。」
「例えこうなる前に誰かが気付いても、エルシャ姫は認めなかったと思います。そうでなければ今まで隠し通すなんてこと、できなかったでしょうから。」
(だから自分を責めないでください、アルマン陛下。……いいえ、“エルシャ姫のお父さん”。)
力付けるように小さく笑って悠樹は踵を返した。途中、ミアーナにワゴンの中身を確認してから扉の前に立ち、彼らが立ち去るのをじっと待つ。やがて周囲から人の気配がなくなったのを見計らって、悠樹は深呼吸を二回してから目の前の扉をノックした。
「エルシャ姫、聞こえる?私、悠樹。」
扉に向かって声をかけると、中からガタリと何かが動く気配がした。探索を詠唱し、エルシャが一人で中にいることを確認し、もう一度声をかける。
「みんなには離れてもらったから、今は私しかいないよ。……ドア、開けてくれない?」
エルシャの気配が近づいてくる。扉を挟んで一メートルほどの位置でぴたりとその足を止め、じっとこちらを窺っているようだ。
「……本当に、悠樹様?」
「うん。」
「通信術具の声じゃなくて、そこにいらっしゃるの?」
「うん。」
「悠樹様でしたら、ドアを開けなくても術で中に入れますよね?」
「うーーーん。……エルシャ姫のお部屋は入ったことがないからどうかなぁ。部屋に入れても机の下とかベッドの上とかになるかも。あ、部屋通り過ぎて窓から庭に落ちるとか。」
「……通りすぎないでくださいませ。」
力のない小さな笑い声と共に、カチリと鍵の開く音が響いた。薄く開いたドアから目深にショールを被ったエルシャが顔を覗かせた。外の様子を窺い、悠樹だけしかいないことを確認すると扉を大きく開ける。
「どうぞ、お入りください。」
「ありがと。」
にこりと笑うと、悠樹はワゴンを押しながら彼女の部屋へと入っていった。