表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
番外編 ~本編後日談~
154/166

解術 王子と暁姫の…-3

 気になる単語は一つではなかったが、悠樹は自分の危機回避能力を信じて、一つをスルーし、もう一つの単語についてのみ声を上げた。



「浮気なんてしてない!」


「だがリジュマールとキスしたんだろう?」


「あ、ああああれはキスじゃないもん!解術(シーク)だもん!」


「では、リジュマールには触れていない、触れられてもいないと言えるか?」


「う……」



 必死の言い訳もファルシオには届かない。涙が滲みそうになるのを堪えて、どう説明すればいいのかと思案する悠樹の耳に、ファルシオのため息が聞こえた。



「……暁姫(エイル)悠樹。俺にもその解術とやらを頼みたい。」



 そう言ってファルシオは身体を離した。悠樹に背を向け、対応用のソファまで移動するとそこに腰掛ける。



「悠樹に触れた者すべてを許せなくなる呪いに侵された。気が狂いそうな俺を救ってくれ。」



 意地の悪い笑みを浮かべてはいるが瞳は真剣そのものだ。

 ファルシオの要求を正確に理解して、悠樹の頬が染まった。視線を逸らし、あー、うー、と意味を成さない言葉を発した後、ちらりと一メートルほど隣を見た。そこには廊下へ続く扉がある。今そこに飛びつけば、部屋の中央に座るファルシオに妨害はできないだろう。


 だが。



「…………バカ王子。」



 気づけば、悠樹は扉に背を向けて歩き出していた。ソファに深く腰掛けて自分を見上げる男の前で立ち止まり、その両肩に自分の手を置く。



「ファル、三年で性格変わった。」


「そうか?」


「前はこんな意地悪言わなかったもん。」



 囁きながら腰をかがめていく。さらりと落ちた髪をファルシオが掬い、赤く染まった小さな耳にかける。そのまま後ろに回された手に誘われるように、悠樹はそっとファルシオに口付けた。

 ふわりと触れてすぐに離れると、数センチの距離で金に近い茶色の瞳が切なそうに細められた。



「言わなかったんじゃない。言えなかったんだ。……何か言えば、またお前を傷つけてしまいそうで怖かった。」


「……バカ王子……」



 もう一度、そう呟く悠樹の口唇にファルシオのそれが重ねられる。悠樹は無意識のうちにファルシオの背に腕を回していた。




 一方、ファルシオは。


(あの二人の行いは許しがたいことではあるが……たまには悪くないな、こんな日も。)


 暁姫の“解術”によってすっかり機嫌を直していたのだが、それを表には出さないまま。期せずして転がり込んできた幸福の大きさに、一人、密かに快哉を叫んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ