解術 術師たちの…-3
「「え?!」」
ぱかん、と口を開いて自分を見る師弟に眉をひそめ、リジュマールが腕を組む。豊満なバストが強調されるようなポージングに、悠樹は知らず自分の胸元に視線を落とし、次いで肩を落とした。
「私の性別転換はシィンとの入れ替えで成立している。ヤツは消滅したか、生きていたとしても絶対不可侵結界の中だ。どうやっても戻れないだろう。それにあんなのは……」
リジュマールは眉を寄せて口ごもると、不思議そうに自分を見返す悠樹に向かって軽く首を振った。
「とにかく、不老だけ解ければいい。…………一人で生き続けられるほど私は強くないんだ。いつかはシィンのように狂ってしまう。そんなのは耐えられない。」
ぽつりと零れ落ちた言葉に悠樹は言葉を失った。リジュマールの後ろでフィルドは視線を落としている。
歳をとらない。
それは永遠に一人で過ごし、同じ時間を歩む人を得られないということ。周りが皆歳をとり、老いて死んでいっても自分だけは今の姿のまま生き続けなければいけないということ。
ファルとフィルド、二人の不死の術を解いた今、彼女の言葉通り、リジュマールはこれからずっと、一人で永遠の時間を生きなければならないのだ。それは何よりも酷い刑罰のようにも思えた。
「…………――った。」
「ん?」
かき消えてしまいそうな小声で悠樹が呟いた。その顔は赤く染まっている。
「い、一回、だけ、……だからね。」
「いいのか?」
「聞かないでよ、決心が鈍るでしょ!……リジュがシィンみたいになっちゃうのは嫌だもん。人助けだよ、人助け!」
そう言いながらもじりじりと後ろに下がる悠樹に向かい、リジュマールが手を伸ばした。腰に腕を回して逃げをうつ身体を抱え、細い指を顎に添える。
一方悠樹は、自分で言い出した事とはいえ、どうすればいいのかとグルグルと思考の渦の中にいた。そんな時、顎を取られ、持ち上げる力に逆らわずに仰のけば、これからしようとする行為とはかけ離れた冷静な顔が近くに見える。だがその瞳は真剣そのもので、悠樹はさらに頬を赤らめた。
「なーんか、そういう趣味の人に見せたらとっても喜ばれそうな光景だねぇ。」
「うるさいバカ!」
「リジュがもう少し、雰囲気出してくれるともっといいんだけどなー。」
「もう、フィルドはあっち向いててよ!」
茶々を入れるフィルドに、真っ赤になった悠樹が言い返す。その様子を黙って見ていたリジュマールが鼻先で笑った。
「無理を言うな。私よりも色気のない小娘に欲情などできるか。」
「よっ……」
耳を疑う単語に目を見開くと、こちらを覗き込むリジュマールと目があった。
「だが感謝する。」
かつて見たことがないほど穏やかな表情で、九割は吐息に溶けた声が囁いた。