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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
15/166

目覚めた王子-3

『マルさん。この世界から抜け出す。』

『その代わり、僕の友人にかけられた呪いを解いて欲しいんだ』

 ずいぶん昔のような気がするが、実はそれほど時間が経ってはいない少年の言葉を思い出し、悠樹もその顔に笑みを浮かべた。うっすらと染まった頬と口角の上がった桜色の唇、細められた瞳が作り出したのは、この場所に来て初めて見せる最高の笑顔だ。

 だが。

「ふ・ざ・け・る・な・?」

 悠樹から吐き出されたのは、表情の穏やかさとは裏腹な怒りの感情を滲ませた声だった。

 豹変した悠樹の様子に、ファルシオは動きを止め、少年は目を見開いた。

「確かに!元の生活に戻すなんていってなかったけど私の命だけ助けるなんて限定もしてなかったでしょ。あの状況で助けるって言ったんなら私の人生ごと助けなさいよ。私はね、行きたい学校もなりたい将来もそれなりに決めてて、模試だってA判定で人生これからなの。それをめちゃくちゃにしておいて何ふざけたこと言うかな。責任取れ、この詐欺師がっ!」

「いや、詐欺師じゃなくて術師(デフィーノ)……」

「どっちも同じでしょっ!」

 なおも言い募ろうとする悠樹を止めたのは、それまで黙って聞いていたファルシオだった。

「責任は俺がとろう」

 少年の前に立ち、悠樹から彼を隠すようにして彼女を見つめる。

「術式の責任者はフィルドだが、お前をここに呼ばねばならん理由は俺にあった。そのせいで将来を棒に振ることになったのなら、その責は俺が負うべきだろう」

 そう言う男の表情にも、瞳にも、からかいの色はない。

 じっとファルシオを睨みつけていた悠樹は、大きく息を吐き出した。目を閉じ、深呼吸を繰り返して心を落ち着けると、ファルシオを見上げた。

「どうやって?」

 尋ねる悠樹に小さく首を振り、ファルシオは悠樹の右手を取った。硬く握られた指をそっと開かせ、そっと自らの唇を寄せる。

 気障ったらしい仕草も、王子のような容姿(といっても本当の王子だが)のファルシオがやればそれなりに様になる。悠樹は呆気に取られて目の前の男と、男に包まれた自分の手を交互に見つめ、やがてかぁっと頬を染めた。

「ちょっ」

「結婚しよう」

「……はぁ?!」

「この俺が責任をもって、お前を幸せにしてやる」

 どん、と効果音が聞こえてきそうなくらいに胸を張ってふんぞり返る男に、悠樹の中の何かが――キレた。


「こンのバカ王子ーーっ!!」


 城内の人々が眠りから覚めて最初に耳にしたのは鳴り響く鐘の音と、それに負けじと叫ぶ悠樹の怒声だったと彼女が知るのは、それからしばらく後のことになる。


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