解術 術師たちの…-2
男の正面に、また別の気配が現れる。
「フィルド!お前何をやった!」
姿を見せると同時に叫んだのはリジュマールだ。燃えるような赤い髪を振り乱し、自分よりも身長が高くなったフィルドの胸倉を掴む。妖艶な美女が妖しげな男に食ってかかる姿は、パッと見ドラマのワンシーンのようにも見える。だがそれよりも今の悠樹にとって重要なのは突きつけられた事実の再確認だった。
「リジュがフィルドって呼んだよ……。やっぱりあれがフィルド。あの、無駄に色気振りまいてるようなのがフィルド。」
はあぁぁっと大きなため息をつきながら呟く悠樹をフィルドが肩越しに振り返った。その動きに合わせて、リジュマールの視線も悠樹に向き、そして得心したように頷いた。
「お前が解術したのか。」
「このコにそんな力あると思う?暁姫と呼ばれる乙女のキス―」
「わーーーーーーっ!!」
平然と言ってのけるフィルドの言葉を、悠樹の絶叫が遮る。
子供の姿の時でさえかなりの衝撃だったのに、今の姿でその一言は恥ずかしすぎた。真っ赤になる悠樹と意地悪く笑うフィルドを見比べて、リジュマールはまた頷いた。フィルドから手を放し、スタスタと悠樹へと近づいていく。その顔からは表情が消え、不気味なまでの静けさがある。
「な、何。」
微妙に腰の引けた状態になっている悠樹の目の前で立ち止まると、リジュマールは腕を伸ばして悠樹の顎を捕らえた。上向かせておいて、さらに自分の顔を近づける。
絶世の美女と言っても過言ではないであろう美貌が、悠樹の前に晒された。
「私にもやらせろ。」
「や……」
絶世の美女と言っても過言ではないであろう美貌が、悠樹の前でとんでもない台詞を吐きだした。悠樹は絶句して固まり、フィルドは苦笑する。
「そこまでいったなら、そのままやっちゃえばいいのに。」
「ばっ、はな、リ、うきゃああぁぁぁっ!!!」
意味を持たない声を上げてリジュの手を払いのけ、悠樹が真っ赤になって後ずさる。それを見送ってリジュマールが深いため息をついた。
「つまり、お前は了承を得ずにやったわけだ。百二十年以上経っても変わらないな。」
「変わろうよ!つかキャラ違う!なんなの、そのオンナったらし設定!どっから来たのよーーっ!」
「あはははははは。」
涙目の抗議を笑いで受け流して、フィルドは腕を組んだ。小さく首を傾げて、翡翠色の瞳を輝かせる。
「ねぇ悠樹。リジュの男の姿、見てみたくない?」
「そりゃ見……その手にはもう乗らない!」
「かっこいいよ。」
「……見、見たく……」
「たぶん、ファルよりも。」
「…………」
黙ってしまった悠樹を見て、フィルドが目を細める。だが、それを破ったのはほかでもない、リジュマールだった。
「私は男には戻らないぞ。」
彼女はたった一言、そう告げた。