解術 それぞれの…-2
少年は苦笑して緩く首を振ると、卓の上で指を組んだ。
「陛下のほうが年上だよ。ただ僕の場合、反動が消えても今のままか当時の年齢に戻るだけで、あとは普通に歳をとると思うけど。」
「当時の年齢って……」
「二十九。今のローよりちょっと上だね。」
(てことは、ファルの年齢を足してちょうど五十?……見えないわー。)
名前を出されたローミッドが引きつった顔で会釈を返すのを見ながら素早く計算する。皆がローミッドと同じ様な表情をしているところをみると、フィルドが自分より年上であることを理解はしていても、それを現実として想像することはできないのは誰も同じのようだ。
悠樹としても、見てみたいという興味はあるものの、本当に年上のフィルドの姿を前にして動揺しない自信はない。
とはいえ。
「……見てみたかったのになぁ。」
心底、残念だという口調の悠樹にファルシオたちが苦笑する。だがその中で、当事者であるフィルドだけが小さく首を傾げた。
「そんなに見たいなら、方法、なくもないけど。」
「ホント?!」
音がしそうな勢いで少年を振りかえった悠樹に、フィルドが笑う。
「うん。すぐやるから、ちょっと目瞑ってて。」
それは普段張り付いている笑顔ではない。何か、悠樹にとってよからぬことを企んだ時の顔だ。悠樹は浮かべた笑顔を引きつらせて、首を横に振った。
「あー、やっぱいい。嫌な予感がする。」
「あははははー。大丈夫だって。ほら、早く。」
小さな手が伸びて悠樹の目元を覆う。
強引なその動作に、む、と僅かに唇をとがらせた瞬間、周りにいる者の息を飲む音が聞こえた。同時に、口唇に柔らかな感触が触れる。
(……………………え?)
ちゅ、とわざとらしいリップ音と共にその感触が離れ、目元を覆う手も外れた。そこには焦点も合わないほど至近距離からこちらを覗き込む翡翠色の瞳。
「呪いを解くっていったら、コレだよね。」
猫の瞳を思わせる細くなったそれがちらりと他の男性陣に向けられ、くすりと笑うと少年は一瞬にして姿を消した。あとに残されたのは、赤くなったり青くなったり白くなったり塵になったりしている男たちと、石化した悠樹。
「フィルドオォォォォッ!!!」
憤怒の表情で怒鳴るファルシオの声が、東屋に響き渡った。