お茶会の誘いと晩餐会の記憶-1
本編後日談、第一弾です。
※ifお買いものシリーズ(術師と騎士)は完全にドツボに嵌まってしまったので、一時保留にしました。楽しみにお待ちいただいた皆さま、本当に申し訳ありません。
「イエルシュテインのエルシャ姫が、お前に会いたいと言っているそうだ。」
ある日のこと、アリアに言われてファルシオの執務室を訪ねた悠樹に、ファルシオが何やら困惑した顔でそう告げた。悠樹はきょとんと彼を見つめ、やがて首を傾げた。
「…………なんで?」
「詳しいことは俺も聞いていないが、書状をいただいているぞ。」
そう言って差し出されたのは一通の封書だった。表には悠樹の名が、裏にはイエルシュテイン王家の紋章と差出人の名が記載されている。
エルシャ・ファナ・ディクト・イエルシュティアナ。
忘れもしない、悠樹が元の世界に戻るきっかけになった事件の元とも言える女性の名だ。略式ではあるが印も押されており、形式に則った招待状であることに間違いはない。
悠樹は眉間に皺をよせ、首を傾げながらもそれを開くと、手紙に目を通し始めた。
『信愛なる悠樹さま
ご無沙汰をしております。
こちらにお戻りになられる日をずっとお待ちしておりました。
過日は父と我が国の臣が大変なご迷惑をおかけいたしました。
イエルシュテインの者として、そしてエルシャ・ファナ・ディクト・イエルシュティアナ個人して、心からお詫びを申し上げます。
つきましては、お詫びを兼ねて悠樹様を私主催のお茶会にご招待をさせていただきたく、突然のご案内を申し上げました。
今も私を友と呼んでいただけるのであれば、ぜひお越しいただきたく存じます。
エルシャ・ファナ・ディクト・イエルシュティアナ』
「…………今も、友と?」
まるで、以前は友達だったと言わんばかりの文章に、悠樹の顔に困惑が浮かぶ。横から書状を読んだらしいファルシオも、不思議そうに首を傾げた。
「知り合いだったのか?」
「んなわけないじゃん。自慢じゃないけど、この国での友好関係は狭いよ。」
「そうだよな。……だが、もう迎えも来てるぞ。」
「迎え?」
ファルシオの言葉を繰り返す悠樹に、ローミッドが右手で窓を示した。そこに近寄って外を見れば、そこにはフィルドと何やら話し込んでいる赤髪の――
「リジュ?!」
「ああ、ヤツが姫の書状を持ってきた。ついでに、イエルシュテインまで転移してくれるそうだ。」
(拒否権無しかい。)
ひくりと頬を引きつらせた悠樹にファルシオが苦笑する。
「ま、挨拶がてらに行って来たらどうだ?略式ではあるが王家からの招待状だ。問題はないと思うが、心配ならシェリスかフィルドを連れていけばいい。」
「んー……いいや、一人で行ってくる。どうしてもヤバそうなら、次元転移で元の世界に逃げるから平気。」
「……帰ってこいよ。」
冗談めかした口調で言いながら不安そうに瞳を揺らす、以前よりももしかしたら幼くなったかもしれない男に笑顔を見せて、悠樹は中庭にいる術師の元へと向かった。