if 教授とお買い物-7
少しの沈黙の後、シルクは振り返って悠樹と視線を合わせた。その顔はすでにいつもの彼に戻っているように見える。少なくとも、表面上は。
「手紙を見つけてくださってありがとうございました。ああ、それから誤解しないでくださいね。私は自分の選択を後悔していません。あの時、あの選択をしていなければ、あなたに逢うことはできなかったのですから。」
片目を瞑って言うシルクに悠樹は緩く頷き返す。どこかぎこちないその表情にシルクは小さく苦笑し、小脇に挟んだ本から手紙を取り出して両手で広げた。
「それにしても、塗りつぶされたところになんて書かれていたのかが気になりますねぇ。」
透かしたところで塗りつぶされた文字が見えるはずもないのだが、顔を近づけたり遠ざけたりしながら首を捻る。その顔はどこか楽しそうで、今朝本が見つかったと話していた時に似た雰囲気だ。
「書き間違えたのを塗りつぶした……って感じじゃないよね。」
「ええ。この記録書の真贋に関わる何かを記した後、それを消した。私への挑戦といったことろでしょうか。……なかなか洒落たことをしますね、クインの奴。」
そう呟き、シルクは手紙を折りたたんで本に挟むと悠樹に向かって手を差し伸べた。
「いそいで戻りましょう。お昼に間に合わないと、ファルはともかく執事殿がうるさそうです。」
「げ。もうそんな時間?!」
大げさに顔をしかめる悠樹にシルクが笑い、二人は急いで丘を下り始めた。
++++++++++
「おいクイン、その黒く塗ってある所は何だ?」
「ん?……ああ、これ。僕からのプレゼント。」
「プレゼントだぁ?」
「こんな大事な場所が塗りつぶされてたら気になるだろ?兄さんなら絶対、そこに何が書かれているのか解き明かそうとするだろうからね。」
「あらあら。それじゃぁ、おじい様の冒険譚を書いてあげたの?」
「いや、ただ黒く塗っただけ。何も書いてないよ。……どのくらいで気付くかな。」
「はっはっは、そりゃぁいい。」
「ふふふ、シルクも大変ねぇ。」
「まぁ、お父様のいじわる。ではミリアはシルクおじさまにお会いして、答えはありませんってお伝えしなければいけないわね。」
かつて交わされた会話を知る者はもういない。一枚の紙は溢れんばかりの想いと小さな秘密をその身に記し、ただ在り続ける。
永遠に。
ちょっと暗めなうえに教授がただのヘタレになってしまうので、ひったくり事件に変更しました。すると今度は教授にひったくり退治ができるかが疑問になりまして……。教授ではなく執事を同行させて出来あがったのが本編「執事ローミッドとお買い物」です。
出番を失った教授は見せ場そのものがなくなり、結局ただのヘタレになりました。あぁ不憫。。。