目覚めた王子-2
ここでこのまま話すのも、と言い出したのは誰だったか。三人は揃ってベッドから降り、ソファへと移動した。
「俺はファルシオ・ディアス・セルナディア。暁姫、お前の名は?」
名前も容姿も日本人とは思えない人物が、流暢な日本語を話す。だが名前は妙にネイティブな外国語の響きで聞き取りにくく、失礼だとは思いながらも聞き返した。
「ファルーショ・ディア・スグネタ?……ごめんなさい、もう一回。」
「……ファルだ。そう呼べばいい。」
「ファル王子、ね。私は築島悠樹。それで、えいる?って何ですか?」
どこか疲れた顔で愛称のような名を告げたファルシオは、悠樹の質問に首をかしげた。
「俺を目覚めさせたのなら、お前が暁姫なのだろう?」
「知りません。初めて聞きました」
「……お前は一体何を説明……するわけがないな。」
ファルシオは傍らに座る少年に問いかけ、直ぐに諦めたように首を振る。
(この王子、苦労性だ絶対。将来ハゲそう。)
失礼なことを思いながら、悠樹はそ知らぬ顔で座る少年に向き直った。
「まぁなんでもいいです。私には関係ないし。それより、そろそろ帰してほしいんですけど」
「……何のことだ?」
ファルシオが疑問の声をあげ、悠樹は彼を正面から見返した。
「呪いを解くか、死ぬか。どっちか選べって言われてここに来たんです、私」
微妙に事実と異なるが、悠樹にとっては大差のない内容を簡単に説明すると、途端にファルシオの顔が険しくなった。
「ではお前は脅されて、ここに連れてこられたのか」
「脅されたわけじゃ」
ない、と言いかけて、悠樹は口をつぐんだ。少年が突きつけた選択肢は、とても選べたものではなかった。不自由な選択は脅迫と言えない事もない。
黙ってしまった悠樹を見下ろすファルシオの表情が強張り、音がしそうな勢いで隣に座る少年を振り返った。
「どういうことだ」
冷徹な光を瞳に宿し、怒りを殺しきれない低い声で問うファルシオの様子は、常人であれば言葉を失うほどの迫力がある。だが少年は臆することなく、頬をふくらませた。
「なんだか、極悪非道な人攫いみたいな言われ方だねぇ」
(この期に及んで、違うとでも言う気か!)
むっとして睨む悠樹をどこか楽しむように瞳を輝かせて、少年は悠樹と交わした条件をファルシオに伝えると、すぐに悠樹に向き直った。
「というわけで、帰せないよ」
なんでもないことのように告げる少年の声に、悠樹はぱちりと瞬いた。
「はい?」
「確かに、助けてあげようかーとは言ったけどね」
少年はふ、と口角を上げた。それは、今までの作り物めいた笑顔とは違う、自然に浮かんだ表情と思われたが―
「元の生活に戻してあげる、なんて言った覚えはないよ」
笑顔と呼ぶにはあまりにも冷たいものだった。