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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
14/166

目覚めた王子-2

 ここでこのまま話すのも、と言い出したのは誰だったか。三人は揃ってベッドから降り、ソファへと移動した。

「俺はファルシオ・ディアス・セルナディア。暁姫(エイル)、お前の名は?」

 名前も容姿も日本人とは思えない人物が、流暢な日本語を話す。だが名前は妙にネイティブな外国語の響きで聞き取りにくく、失礼だとは思いながらも聞き返した。

「ファルーショ・ディア・スグネタ?……ごめんなさい、もう一回。」

「……ファルだ。そう呼べばいい。」

「ファル王子、ね。私は築島悠樹。それで、えいる?って何ですか?」

 どこか疲れた顔で愛称のような名を告げたファルシオは、悠樹の質問に首をかしげた。

「俺を目覚めさせたのなら、お前が暁姫(エイル)なのだろう?」

「知りません。初めて聞きました」

「……お前は一体何を説明……するわけがないな。」

 ファルシオは傍らに座る少年に問いかけ、直ぐに諦めたように首を振る。

(この王子、苦労性だ絶対。将来ハゲそう。)

 失礼なことを思いながら、悠樹はそ知らぬ顔で座る少年に向き直った。

「まぁなんでもいいです。私には関係ないし。それより、そろそろ帰してほしいんですけど」

「……何のことだ?」

 ファルシオが疑問の声をあげ、悠樹は彼を正面から見返した。

「呪いを解くか、死ぬか。どっちか選べって言われてここに来たんです、私」

 微妙に事実と異なるが、悠樹にとっては大差のない内容を簡単に説明すると、途端にファルシオの顔が険しくなった。

「ではお前は脅されて、ここに連れてこられたのか」

「脅されたわけじゃ」

 ない、と言いかけて、悠樹は口をつぐんだ。少年が突きつけた選択肢は、とても選べたものではなかった。不自由な選択は脅迫と言えない事もない。

 黙ってしまった悠樹を見下ろすファルシオの表情が強張り、音がしそうな勢いで隣に座る少年を振り返った。

「どういうことだ」

 冷徹な光を瞳に宿し、怒りを殺しきれない低い声で問うファルシオの様子は、常人であれば言葉を失うほどの迫力がある。だが少年は臆することなく、頬をふくらませた。

「なんだか、極悪非道な人攫いみたいな言われ方だねぇ」

(この期に及んで、違うとでも言う気か!)

 むっとして睨む悠樹をどこか楽しむように瞳を輝かせて、少年は悠樹と交わした条件をファルシオに伝えると、すぐに悠樹に向き直った。

「というわけで、帰せないよ」

 なんでもないことのように告げる少年の声に、悠樹はぱちりと瞬いた。

「はい?」

「確かに、助けてあげようかーとは言ったけどね」

 少年はふ、と口角を上げた。それは、今までの作り物めいた笑顔とは違う、自然に浮かんだ表情と思われたが―

「元の生活に戻してあげる、なんて言った覚えはないよ」

 笑顔と呼ぶにはあまりにも冷たいものだった。

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