if 教授とお買い物-6
お参りを終えたらしい年配の夫婦が丘を下っていく。それを遠くに見ながら、シルクはぽつりぽつりと話し続けた。言葉を選ぶように。自分の気持ちを確かめるように。
「うれしかった、んでしょうね。変わっていないことが。気付いたら以前は自分の家だった、あの古書店に向かっていました。そこであの子に、ミリアに会ったんです。」
再び風が吹く。決して強くはないが、それは髪を舞わせてシルクの表情を隠す。
彼の声は、僅かに震えていた。
「・・・息が止まるかと思った。あの子はね、弟の幼いころにそっくりなんですよ。」
悠樹には言葉を返す事ができなかった。
わかってしまったのだ。彼がずっと、誰にも言えなかったことを言葉にしているのだと。
「変わらない街並み、変わらない我が家、幼い頃の弟。・・・百年経ったんじゃない。ほんの何年か、昔に戻ったんじゃないかと、そう思いました。そんなこと、あるはずないのに。」
百年という時間は多くの変化をもたらした。だが眠りについた人々にとっては、たった一晩眠ったのと同じ感覚でしかない。頭では理解していたとしても、現実にその事実を突きつけられた時、冷静に受け止められる人が一体どれほどいるのだろうか。
「私の中で弟のクインは今も十歳のままです。それが大人になり、結婚して子供を得、その子孫と会うことになるなんて考えたこともなかった。そんな覚悟、なかったんです。」
自ら百年後の世界を望んだはずのシルクでさえ、その事実は重かったのだろう。
それでも彼はそれを口にすることはできなかった。城の敷地に住む人全員が、同じ立場だとわかっていたから。そしてその言葉が、友人であるファルシオを傷付けると知っていたから。
「私は歴史研究者です。時間の流れが非情であることはわかっているつもりでしたが・・・・・・本当に、わかっている“つもり”でしか、なかった。」
自嘲的に言って、シルクは顔を伏せた。墓を見つめ、何かを呟く。その声は悠樹には聞こえなかったが、そこに眠る人たちには届いているように思えた。