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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
番外編 〜 本編・if 〜
137/166

if 教授とお買い物-4

 悠樹が包み紙を凝視している間に、シルクは本を読んでは戻りを数回繰り返し、やがて深く頷いた。



「確かに、今残っているものと内容が違いますね。“ブロウで大虐殺を行った反逆者ドルク”、ですか。」


「“ブロウの反乱を制圧した英雄ドルク”が反逆者と書かれているとは驚きだよ。これが本当なら、まさに『歴史は勝者が作る』、だ。」



 マリーナも歴史に関しては詳しいのだろう。本を間に真剣な顔で討論を続ける二人の会話を聞きながら、悠樹は包み紙の一部分に探していたものを見つけ、ほっと息を吐いた。

 その部分に指を重ね、注意深く滑らせていくと、一枚に見えた紙が徐々に剥がれていく。包み紙は時間遅滞と状態維持、異なる二つの術をかけた紙を二枚張り合わせたものだったのだ。

 完全に分離させた二枚の紙を手にして悠樹は目を見開き、そして俯いた。



「やっぱり決め手に欠けるか。もう少し詳しいことまで調べられそうかい?」


「もちろん調べますよ。今の段階では本物だと信じることができませんが、でっちあげにしては詳しすぎる。なかなか興味深い。」


「本物だと思うよ。」



 シルクとマリーナの議論に、悠樹がぽつりと呟く。驚いた顔をして振り返る二人を見つめ、悠樹は笑みを浮かべた。つ、とその瞳から雫がこぼれ落ちる。



「本物だよ、きっと。」



 そういって差し出したのは、本を包んでいた状態維持の紙。張り合わされていた面には、いくつもの文字が書き連ねてあった。



『シルクへ

 じいさんの形見だ。大事に使え。』


『シルク

 元気でやっていますか。皆様もご無事でいらっしゃいますか。

 研究ばかりで体調管理を疎かにしてはいけませんよ。気をつけて。

 こんなところに手紙を書いてもお前は絶対気付かない、なんてお父さんは言うけど、

 ちゃんとした手紙は気恥ずかしくって嫌だ、って怒るんだもの。

 クインもお父さんと同じことを言うようになってしまって困るわ。

 でも手紙を入れようって言いだしたのはあの二人なの。あ、これは秘密よ。

 ちゃんと気付いて読んでくれていますよね?お母さんは信じています。』


『カナカスタの前王の弟ドルクが武力をもって現国王であるナキ王を倒しました。

 今、カナカスタ王宮は粛清の嵐が吹き荒れ、貴重な資料も多く失われたそうです。

 兄さんがいたら、烈火の如く怒るだろうね。おじいさんと同じように。

 この記録書の真贋で悩んでいるだろうけど、これは■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■兄さんに遺します。

 本当は僕が欲しかったんですけどね、おじいさんからの遺言じゃ仕方がない。

 一応、先に読ませてもらったけど、まぁ管理費ということで大目に見てよ。

 僕の子孫たちによろしく。

 彼らには迷惑かけないでくださいよ。』


『シルクおじさまへ

 王子様と一緒にお姫様がいらっしゃるのを待っているのですってね。素敵だわ。

 一度お会いしたいのだけど、まだ何十年もかかるってお父様に言われてしまったの。

 私、おばあちゃまになってしまっているけど会っていただけるかしら。

 ミリア・カザフリントより』



 無骨で力強い文字、優しく柔らかな文字、ちょっと神経質さが滲む細い文字、幼くも聡明さが窺える丸い文字。四人の性格を表すようなそれぞれの文字の中心には、他のどれとも違う、老成した五人目の文字があった。



 曰く、

『この身は遠く離れても想いは常に共にある

 書を守り 真を伝え 己の信じる道を進め』



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