if 王子とお買い物-7
「だから言っただろう。身分を隠さないと見えないこともあるとな。」
「結果論ですって言うよ。ローミッドさんなら、きっと。」
屋敷に戻って普段の服装に着替えた後、ファルシオは悠樹の部屋を訪れた。そして、良い評判を聞かない術具独占販売店ドーソンの経営者一族の三男坊、ジェイド・ミュズカの素行調査を以前から行っていたことを彼女に告げた。ああいったタイプの例に漏れず、王子として街を訪れると決して本性を現すことがなかったために、今回のような方法を取ったのだというファルシオに、悠樹は大きなため息をついた。
「て言うか、あのまま王子だって気付いてもらえなかったらどうするつもりだったの?」
「その時はこれを見せるしかないだろうな。この術具は王族しか持つことが許されていない上に、俺の言葉にしか反応しない。いかに怠惰な放蕩息子でも術具取扱いの専門家、さすがに気付くだろう。」
そう言って示したのは常に身につけている剣だ。普段の服装ならともかく、先程までの格好では少々不釣り合いにも見えていたが、身分証代わりだと言われれば手放さなかったのも納得だ。
「この術具が目に入らぬかー、ってやるんだ?」
「・・・目には入らんだろう。」
至極真面目に答えたファルシオに悠樹が吹き出す。何を笑われているのかわからないファルシオは、ケラケラと笑い続ける少女を呆れたように見つめ、やがて立ち上がった。
「俺は仕事に戻る。ミュズカ家の放蕩息子は術具専売制度が作ったようなものだ。販売システムの変更を考えなければな。・・・今日は助かった。それは礼だ。」
「へ?」
「じゃぁな。」
ひらりと手を振り扉の向こうに姿を消したファルシオを見送って、悠樹は首を傾げた。
「それ、って?・・・・・・あ。」
ファルシオの座っていた場所に小さな紙包みが置かれているのを見つけて、悠樹は手を伸ばした。ごわごわした紙を開いていくと、中から出てきたのは薄紅色の花を象った髪飾り。
『わ、桜みたい。綺麗ー。』
『サクラ?・・・ずいぶん安物のようだが。』
『値段じゃないの。桜は日本の心!私の国に、この花が嫌いな人っていないんだから。』
街についてすぐ、道端に広げられた露天商の商品の中に見つけたガラス製の花。五枚の花弁が作る形と色が懐かしくてつい見入ってしまったそれを、ファルシオはいつの間に、どんな顔で買ったのだろう。
小さく繊細な花の髪飾りを両手で包んで、悠樹はまたクスクスと笑い始めた。
答え:
花屋で見たこともない植物に気を取られている間に露天商の所まで戻り、「安物って言ったじゃないか」云々とからかわれ、仏頂面で戻った時には、そこに暁姫の姿はありませんでした。。。