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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
番外編 〜 本編・if 〜
131/166

if 王子とお買い物-5

 顔を上げた悠樹の額には、くっきりと青筋が浮かんで見える。眉を吊り上げ、黒い瞳に怒りの炎を宿らせて、自分より背丈三割増し横幅二倍の男を睨みつけた。



術具(デック)はねぇ、みんなの暮らしを良くするために術師(デフィーノ)が一生懸命作ってるの。販売者が独占して特権を持つために作られてるんじゃない!」



 ざくりと音をたてて一歩を踏み出すと、男はその勢いに圧倒されたように一歩下がった。先程までの笑みは消え、顔は青ざめ汗が浮かんでいる。



「そんな想いも知らないで、術具を街の人をいいなりにするために使うなんて、絶対に許さないんだから!」



 強く言い切って、悠樹は男に向かって人差し指を突き付けた。



空間を閉ざせ(ペル・ノルン)求めるは(ファナ・)大地から(エグ・サーク・)彼の身長まで(ゼク・イオン・リング)範囲は1(ノン・ク)内部からの脱出を阻みフィクス・カナ・アキ・ハーヴェ―」


「そこまでだ。」



 凛とした声がその場に響き渡った。

 悠樹は詠唱を止め、野次馬の輪を抜けて姿を現した声の主を横目で見ると、再び目の前に立つ男を睨みつけた。



「遅い!」


「すまん・・・じゃない。術師が一般人に術を使うのは違法行為だ。」


「この人、一般人じゃなくて特別な人間なんだって。自分で言ってたから大丈夫。」


「思ってもいないことを口実に屁理屈をこねるな。」



 ため息交じりに言いながら悠樹の隣に立つと、ファルシオはそっと彼女に耳打ちした。目を見開く悠樹を自分の後ろに避けさせて男に正対する。



(『よくやった。』?・・・どういうこと?)



 唖然とする悠樹からは見えないところで、ファルシオはその表情を変えた。王子として求められる、人を処断する仕事を行う際にのみ顔に張り付ける感情を削ぎ落とした仮面。金に近い茶色の瞳は挑むような力強さを宿しながら、裏腹に暗い影で満ちている。


 悠樹には見せなくない顔だとファルシオは心中で嘲い、彼女を本気で怒らせた男へと視線を向ける。

 ミュズカと名乗った男は今のやりとりの間で我に返ったらしく、自らの優位を取り戻そうと声を張り上げた。



「き、貴様が、その小娘の主人か。なんなんだ、そいつは。躾がなってないぞ。」


「それは貴殿の両親にこそ贈りたい言葉だな。」


「な、なんだと!」



 男の顔が怒りで歪む。それを冷静に見つめ、ファルシオはすぅっとその目を細めた。途端に彼の纏う空気の温度が急激に下がった。



「ジェイド・ミュズカ。まだ気付かないようだな。・・・私の顔を見忘れたか。」

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