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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
13/166

目覚めた王子-1

 突然、頭上とも隣の部屋とも思えるような距離で鐘の音が鳴り響いた。音量は大きいが、深みのあるその音は不思議と不快感を与えない。

 少なくとも、その音に不快を感じる余裕など、この時の悠樹にはなかった。

「~~~~~~っ!」

 彼女は言葉もなくその場にうずくまっていた。ぐわんと揺れる視界が涙で滲み、身体が小刻みに震える。噛み締めた奥歯からこめかみにかけては力が抜けず、直接王子に激突した額からは徐々に熱と痺れが広がっていく。震える手で痛む額を押さえ、身体をくの字に曲げてベッドに倒れこんだ。

 悶絶する悠樹に構わず、少年はベッドに横たわる青年を覗き込むと相好を崩した。

「おはよう」

 悠樹と同じく額を押さえて顔をしかめていた男は、ぼんやりとさ迷わせていた金に近い茶色の瞳に少年を映すと、見る間にその顔を引き締めた。

「何年経った?」

 問いながら半身を起こし、強張った上半身を解していく。

「100年と38日。……そんな怖い顔しないでよ。数日の誤差は出るって言ってあったでしょ」

「予定通りに動いているのか?」

「僕の予定には、暁姫(エイル)が王子に頭突きする、なんてことはなかったよ」

「頭突き?」

 その言葉に痛みを覚えたのか、男は眉を寄せて額を撫で、ちらりと傍らでうずくまる悠樹に視線を向けた。彼に背を向けたままの悠樹の赤い頬と目尻に浮かぶ涙、額を押さえる手を見て状況を察したのか、青年の瞳に同情に似た色が宿る。

 それに気づかないフリをして、少年は言葉を続けた。

「方法はともかく、暁姫(エイル)は王子にかけられた術を解き、黎明の塔の鐘は鳴った。これで城中が目覚めるよ」

「……そうか」

 断言する少年にどこか疑問の残る様子で答え、青年は再び悠樹へ視線を向けた。ちょうど、顔を上げた悠樹と目が合い、青年の表情が和らぐ。目元口元に小さく浮かんだ笑みに怒りの色がないことにほっとしながら、悠樹は身体を起こし、ベッドの上で姿勢を正した。

「まずは礼を。お前のおかげで俺も国も救われた。ありがとう」

 お礼というには偉そうな物言いではあるが、不可抗力とはいえ頭突きをしてしまった悠樹としては恐縮するしかない。

「いえ、あの、よく眠ってたのに、いきなり頭突きしてすみませんでした」

(ていうか、なんで頭突きで呪いが解けるわけ?)

 今更のように浮かんだ疑問は口には出さない。「じゃぁもう一回、ちゃんとやろうねー」と言われるのは嫌すぎる。ここにはそういうことを言い出しそうな子供がいるのだ。

 悠樹は心の奥底にその疑問を封印し、絶対に口にはするまいと誓った。

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