if 王子とお買い物-1
パラレルifシリーズ、第一弾。「もしも最初に街に行く時の同行者が執事ではなく王子だったら」の巻。
エンディングとの整合性を考えると、本来は本編に入れるべきだったエピソードです。
「ファル、いる?」
朝食時にアリアから渡された紙を手に、悠樹はファルシオの私室の扉を叩いた。問いかけの形をとってはいるが彼が室内にいることは探索でわかっている。悠樹は返事も待たずに扉に手をかけ、それを押し開いた。
「あのさ、今朝の―」
「おい、ちょっと待―」
二人の声が重なり、視線が合い、そして動作が止まる。
一瞬の硬直の後、先に回復したのはファルシオだった。彼は素早く悠樹に近付くと、声をあげようとする彼女の口を掌で覆い、勢い良く扉を閉めた。
「勝手に開けるなバカ。」
扉に寄りかかりため息をつくと、ファルシオは悠樹をちらりと見て自分の唇に人差し指を当てた。悠樹がそれに頷くと、口を覆う手が外される。
「ごめん。・・・まさか、裸で過ごす趣味があると思わなかったから。」
「あるわけないだろう、そんな趣味。」
がくりと肩を落としてファルシオはまた、ため息をついた。
そう、ファルシオは何故か上半身に何も纏っていなかったのだ。普段のものとは違う、デニムに似た素材のズボンを穿いてはいるが、その上は細身ながらも剣を扱う者特有の筋肉が露わになっている。
ソファにかけられた生成のシャツを着、腰の辺りを紐で止めて形を整えると、ファルシオはようやく悠樹に向き直った。
「それで、どうしたんだ?」
「ん?ああ、今朝アリアにもらった・・・のはどうでもいいや。」
「よくないだろう。今度の晩餐会の招待者リストか?」
呆れた顔をするファルシオに構わず悠樹は紙を折りたたんでポケットにしまいこんだ。
「そうだけど、まだ日があるからいい。それより何、その格好。」
「・・・別に。気分転換だ。いつも同じ格好だと肩がこるからな。」
すっと視線を逸らして答える男に、悠樹のセンサーが敏感に反応する。悠樹はにっこりと笑うと、ファルシオの正面へと移動した。
「あんまり見かけない服だよね?」
「部屋着みたいなものだからな。これで屋敷をうろつくことはない。」
すっと、また視線が外される。悠樹はまた正面に回り込んで、その瞳を覗き込んだ。
「この部屋でもあんまり見かけないけど?」
「・・・たまたま、じゃないのか?」
若干、身体を引き気味に答えるファルシオをじっと見つめて、悠樹はくるりと彼に背を向けた。
「そっか。じゃ、ファルの部屋着がどんな服か、ローミッドさんに訊いて―」
「だあぁ!わかった、わかったからあいつには言うな!」
観念したように叫ぶファルシオに背を向けたまま、悠樹はにんまりとその顔を緩めた。