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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
12/166

少年と“約束”-7

 信じられない言葉に悠樹の目が見開かれた。

(うそ……)

「僕としても心苦しいけど」

 天使を思わせる愛らしい笑顔が悪魔のように囁いて、両腕を悠樹に差し出した。それはここにくる前に、彼が見せたものと同じ動作。悠樹は息を飲んであとずさった。

(うそ……そんな……なんで…………どうして?)

 少年がにこりと、微笑んだ。

「“約束”、守ってもらえないなら仕方がないよね」

(“約束”……?)


『“その代わり”、僕の友人にかけられた呪いを解いて欲しいんだ。』


 少年の言葉が脳裏によみがえる。

 そう。助けてもらう“代わりに”、呪いを解くと約束した。

(……だから……呪いを解かないなら、助けない…………?)

 導き出された答えに、すぅっと血の気が引いた。少年の顔から視線を外して首を振る。

「や、やだ……あそこは、嫌……」

 途切れ途切れに悠樹が言うと、少年は、ふふ、と声を上げた。

「覚えておいて。僕はそんなに優しい人間じゃない。でも、君は特別。だからもう一度だけ、選ばせてあげる。マルいち。さっきの白い世界に帰る。マルに。彼の呪いを解く。…………さぁ、どっち?」

 穏やかな口調で告げるのは明らかな脅迫。震える唇を噛んで顔を上げると、悠樹は王子へと視線を移した。先ほど胸倉をつかんだせいで、整えられていた王子の髪は少しだけ乱れていた。額にかかった髪を横に流してやり、その手をそのまま男の顔の横に置く。

(自慢じゃないけど、したことないんだからね)

 自分を脅迫する人間にこれ以上弱みは見せられない。それ以前に、小学生相手にそんなこと言えるはずもなく悠樹は心の中で呟いた。

(これは人助け。むしろ自分助け。人命救助と一緒。というか自分の命を守るためのもの)

 必死に自分に言い聞かせ、自ら顔を寄せていく。

(人工呼吸みたいなもの。犬にかまれたのと同じ)

 段々近づいてくる長い睫毛も通った鼻筋も軽く結ばれた薄い唇も、直視できずにぎゅっと目を瞑る。

(初めてをイケメンとできてラッキー、みたいに思…………えるわけないけど!)

 ぷるぷると震え、それ以上近づけなくなった悠樹の耳元で、少年のため息が聞こえた。

「さっさとやる」

 言葉と同時に後頭部を掴まれる。それに文句を言うより早く、押さえつけられる力のままにぐんと顔が下がり。


ゴンッ


 硬い音と共に、目の前に火花が散った。

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