決着の時-1
自分の内側に精神を集中させる。
胸の中にある、温かなものを抱くように、育てるように、そこに意識を集めていく。
「我は求める、空間の扉」
第一節、空間転移のための扉を開く術言。
同時に、どくりと力が脈打って大きく膨らんだ。
結界の外では、フィルドの風がシィンを後退させ、ファルシオの雷光が黒蝶をなぎ払っている。その先にほんの一筋、蝶のいない空間が作られていた。その方角を見定めて悠樹は続きを口にした。
「求める地は、日方138、星度52、海高8、ペクトラティオ神殿前」
第二節は行き先までの道を拓き、軌道を確保するためのもの。
座標を入れることで着地点は正確さを増し、その分求められる術力も集まる力も増える。さらに大きく成長した力を抱えて、膝が震え出した。今にも暴発しそうなその流れに、悠樹の心が恐怖に負けそうになる。
それでも。
悠樹は顔を上げて、正面を見据えた。
道を作るために蝶に向かうファルシオとフィルドの背中が見える。
悠樹を守るように立つシェリス、シルクの気配が左右にある。
少し離れた所で見ているのだろう、リジュマールとアルマンの視線を背中に感じる。
そのすべてが、悠樹の恐怖と震えを止め、落ち着きを取り戻させてくれる。
第三節。自分を含めた八人だけを離れた場所へ運ぶための最終節を結ぶために大きく息を吸った。
「ファルシオ、フィルド、シェリス、シルク、リジュマール、アルマン二世、えーっと、ルクスバードの使者、それから私。道を繋ぎ、古き王を除く我ら八人を導け」
詠唱終了の途中でリジュマールが結界を解除し、ファルシオ達の作った道がはっきりと感じられる。それを塞ごうとする蝶の気配を避け、見据えた転移ポイントを意識して術を結ぶと、身体の中で力が弾けるのがわかった。
耳元で鳴る轟音と揺らぐ景色、自分一人だけなら起きない衝撃。それらに不安を感じるよりも早く、悠樹は周りに蝶の気配がないことに気が付いた。
目を開けると、自分の足元には石床ではなく緑の草が広がっている。石壁も天井もなく、生い茂る緑と小さく光る星が、そこが野外であることを教えてくれる。
「っ!みんないる!?」
呆けたようにそれらを眺めてから、我に返って振り返ると。
「お見事ですね。さすがは我らの暁姫」少し青ざめた顔でシルクが微笑む。
「助かりました。ありがとうございます」生真面目にシェリスが頭を下げる。
「術にも器にも見合わない大量の力を集めたら発動が不安定になるに決まってる。何を教わってるんだ、お前は」疲労の滲む表情でリジュマールが悪態をつく。
その向こうで、アルマンが黙ったまま空を見上げていて、足元にルクスバードの使者が倒れているのが見える。
だが。
「・・・ファルとフィルドは?」
残りの二人の姿は、どこにも見えなかった。